旅立ち56
流れるような話で、さらりと流した話だが、そこにはとんでもなく重要な事をリーフが言っている。
抜け道の存在を知っていて、外と拠点を繋ぐ最も重要と言える地点に、何らかの対処を一切していない訳が無い。
先程から、リーフも削られた岩がジグソーパズルのように組まれているのを知っていながらビレーを手伝わなかったのは、万が一罠が仕掛けられていた場合の事を考えて、ビレーが手伝わないように合図を送っていたのだ。
道中で鉄騎兵と出会わなかったことも奇跡的であったが、一切の罠が仕掛けられていないのも奇跡的で……これだけの奇跡が何度も続くと異常としか言えない。
なにも好き好んで鉄騎兵に会いたい訳でも無いし、罠に掛かりたい訳では無いだのが……
ここまで順調に来れたのではなく、ここまで敵に連れ込まれたのではないのかという不安が胸を過る。
もしかしたら敵は、自分達が森の中では散開して逃げ出すかもしれないと踏んで、全員を抹殺するために逃げ場の無い、この拠点にまで連れ込ませたのかもしれない。
このドアを開けた瞬間に、鉄騎兵が流れ込んで来て……
「行きましょう。おじい様」
最悪の事態が頭の中を駆け巡ろうとした時、駆け巡ろうとした最悪の不安を止めたのはリーフの屈託の無い、心からの優しい笑顔であった。




