旅立ち53
「凄いだろ」
「これは?」
「感触は本物の岩だから触られてもバレない、裏側を削って軽くしてあるけれど、パズルのようにはめ込んであるから外し方が分からないと、動かすことが出来ない。ちょっとやそっと調べた程度ではバレやしない……ってお父様が言ってたわ」
そう言いながら、ビレーは洞窟の奥をカモフラージュしていた、軽石のように軽くなっている岩をひょいひょい外すと、奥へと広がる洞穴がぽっかりと口を広げる。
それは、自分達が期待していた拠点まで繋がる道なのであろうが、
「ここを通るのですね……」
「そうだよ」
天から光が届かない洞窟の先は闇が広がる等という生やさしい物では無い、黒い世界……いや、なにも存在しない無と言っても良い。
その先に希望があるかもしれないのは分かっているが、目の前の視認出来ない無の世界が、あの世か地獄に繋がっているのではないのかと錯覚してしまって、足が前に出ない。
リーフとビレーはこの先がどうなっているか分かっているから、目の前の無に恐怖を覚えないが、他の者達には得体の知れない恐怖が襲い掛かる。
誰かが一歩でも足が前に出れば、そのまま進めるのかもしれないが、その一歩を出すのが……
「ほらっ、行くしかないぞ」
「中に入ったら、前に行くしか無いから光を強くするから安心して」
その一歩を出すことが出来なかったが、そんな自分達を鼓舞するためにビレーが戻って来て、一人の部下の背中を叩くように押すと洞窟の中に一歩を踏み入れさせ、リーフが洞窟の中を明かりで灯す。
「……ありがとうございます」
リーフの配慮で、あの世か地獄に繋がっているように見せていた無が、洞窟のとしての暗い岩肌を見せ、ビレーの檄で幻覚を打ち破る一歩を踏み出すことが出来た。
「行きましょう」
「「はいっ!!」」
御膳立ては十分にされた、リーフが照らし出してくれる光を希望に、敵の拠点へと続く洞窟の中を進んで行く。




