旅立ち40
敵の拠点とは距離を取っていたが、それでも敵の支配下に置かれている土地にいるのだから、パトロールで巡回している鉄騎兵がいるなんて容易に想像出来て、
「「戻れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」
こんな暗闇の中で、マナを光らせては遠目からパトロールに見付かるなんて、リーフだって分かり切っているはずなのに……
出遅れたビレー達は、どんなに走っても間に合わないと、リーフを呼び戻すために大きな叫び声を上げた。
森の中の葉が、叫び声に呼応してざわめき、震える悲鳴がリーフを包んでも振り返る事は無く。
リーフの目にも鉄騎兵が見えているはずなのに、敵に身構える事無くそのまま突き進めば、このまま鉄騎兵の餌食になる。
自分の命に変えても……自分の命を掛けても守らないといけない、孫娘のような存在のリーフが……
リーフが鉄騎兵に近付く程に体中が強張る……
これから起きる事を想像出来てしまうから。
鉄騎兵は鎧をまとった拳を握り締めて、オークと同じ体格の兵器が容赦無く、リーフを殴って大地に叩き付ける……
それは、戦場で何度も見てきた光景。
地面に叩き付けられた者はその場で卒倒し、鉄騎兵は倒れた相手に馬乗りなると、恨みを晴らすかのように相手が死んだと満足するまで殴り続ける。
そうなる前に何がなんでも、この身を挺してでもリーフの間に割って入らなければならないのに、リーフは空を舞う蝶を、物珍しく追い掛ける子供のように走って行ってしまう。
もう間に合わない……
鉄騎兵の拳がリーフを捉える距離になってしまい、自分の頭の中で描いた想像が……
「……」
現実になる事無く、鉄騎兵は自分の目の前を駆ける侵入者を一瞥するだけで、無視するのであった。
「なにが!?」
普段なら、絶対に敵を見逃すなどしない鉄騎兵が、リーフに一切の興味を示さない。
理由は分からない……理由は分からないが、
「みんな姫に続け!!」
鉄騎兵がこちらに攻撃をして来ないというのなら、このまま突き進むしかない。




