旅立ち35
そこまで絶望的な状況ならいっその事、投降するという手段もあるのではと思うかもしれないが、敵に捕まるという事は存在しない。
それは捕虜になる位なら死んだ方が良いという誇りとか、捕虜になる事を本国から禁じられているとかでは無く、
「あの悪魔共め…リザードンの手先にでもなったのか……」
あるのは処刑だけ。
どんなに相手の情に訴える命乞いをしても、どれだけ自分の帰りを待っている者がいる事を伝えて懇願しても、関係無く殺す。
これが、リザードマン達が相手なら分かる。
違う人種で、今では互いに抹殺してこの世を自分達だけの世界だけにしたいのだから。
しかし、鉄騎兵を率いているのはエルフの聖女リミィなのだ。
同胞なのだ。
同じエルフなのに、捉えたエルフもオークも無慈悲に殺す。
唯一、少しの時間を生き残れるのは指揮官等の情報を持っている者だけ……なのだが、その生きられるというのは、あくまでも抵抗して口を割らないという事をして拷問を受ける時間。
拷問を受けて長く生きるか、情報を吐いて楽に殺して貰うかの二択しかない。
執拗なまでに処刑を行う彼女等に最初は憤慨し、裏切者と罵っていたのも遠い昔。
現在では一転して、苛烈なまでに自分達を粛清する聖女リミィに恐怖を覚えてしまっている。
相手が生かして返さないというのなら、自分達で何とか生きて帰らないといけないのだが、
「うっ…ぐぅ……ごめん……なさい……」
絶望的なこの状況で、希望が無いこの状況で、みんな我慢していがリーフは泣いた。
目に見える押し潰してくる不安に、決して訪れない希望に、少女であるリーフの心が折れてしまうのは無理も無い。
それをみんなも分かっているからこそ、
「姫!!我々の命消えて無くなろうとも姫の御命、御守り通します!!」
「生きて故郷の地を踏みましょう!!フレン様も帰りを待っていらっしゃいます!!」
大人である自分達がめげる訳にはいかない。




