異世界34
オークはハンマーを高く振り上げて集中する。
地面をただ真っ直ぐに、ただ速く這うだけで突っ込んでくる鉄騎兵を捉えられないなど有り得ない。
振り上げたハンマーを、馬鹿正直に突っ込んでくる鉄機兵に合わせて、渾身の一撃を……
『パシュン!!』
渾身の一撃を放とうとした瞬間、鉄機兵が目の前から消えた。
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(この体は本当に素晴らしい……)
殺意を向けながらハンマーを振り上げたオーク。
オークからの殺意を感じ取った鉄騎兵は、瞬間的に加速してみせる。
元の体だった時には出来なかった動きに、鉄騎兵は自らの新たな体を褒める。
自画自賛をせざるを得ない程に素晴らしい体、この体を手にしたのは機会を手にしたのは、あの死んだ日。
死んでなお浄化される事無く、戦乱で穢れた現世で彷徨い続けた時、
(どうか、私の話を聞いて欲しいの)
エルフの女に話を掛けられた時は反吐が出るような思いだった。
どちらが先に戦争を仕掛けたのかは分からないが、エルフとリザードマンの戦争は冷戦を迎えていた。
国境ギリギリまで進行して、互いが姿を見せては、
「敵が来たぞぉ~~~迎え撃てぇ~~~~~」
「敵を討つぞぉ~~~根絶やしにしろ~~~~」
間延びした、やる気の無い声が響くと相手が怪我をしないように遠くから弓を放ち、相手に当たらないように岩をデタラメに放り投げては、お互いに怪我をしないように気を付け。
「今日は寒いですね……雪…降りますかね」
「そうだな。しばらくは休暇だな」
エルフはリザードマンが冬の時期になると活動が鈍るのを知っておきながら、
「本国には雪で道が閉ざられてしまって、進行できませんと伝えておけ」
互いに本気では無い、本国に送る報告の為の戦争ごっこを続けていた。
そんな日々が続く中、今日の進行が終われば自分の国に帰ってゆっくりと過ごすことが出来ると、仲間と談笑しながらピクニック気分で出掛けたら、
「なぁ……エルフの方から血の臭いがしないか?」
遠くからではあるが、血の独特な臭いが鼻孔をくすぐる。




