夢の中18
「あれが瘴気を出しているの……」
礼人も皆が一様に見つめる赤い裂け目を見る。
それはまるで人の傷口のように真っ赤で、人の傷口のようにテカテカした鈍いきらめきを放つ。
これが自分達が探し求めていたモノ。
「じいちゃん、これをどうにかすれば良いの……?」
「慌てるな慌てるな、これは言わば妖が通った道みたいなもんなんじゃが、これを塞いでおかんと後から妖が出て来たり、今みたいに周囲に悪影響を与えたりするから塞いでおくのが吉という事なのじゃ」
そう二月が礼人に説明している間にも、アニー達が裂け目を塞ぐ。
経文を開いて空間の裂け目を塞ぐ者と、その作業を守る為に周囲に広がるアニー達、そしてその近くで二月達は、
「それじゃあワシ達は先に休むかのう」
腰に備え付けてある少し大きめのポーチから銀色のシートを出して雪の上に広げ、そこにやれやれと重い腰を落としてからポーチに入っている小さな水筒と乾物の肉、キャラメル等の食料を取り出す。
一見すると命懸けで動いている者達の中で不届きな行いに思えるかもしれないが、彼らの作業が終われば交代して休憩を取らせ、緊急に動かないといけなくなった場合でも、今休憩している者達が先陣を切って先に行くことも出来る。
空気を読んだなら、みんなで何かしらの作業をするべきと思うかもしれないが、不公平に思えても状況を判断して動かないといけない時もある。
「二月様、妖はどこまで行ったんでしょうか」
「そうじゃのう、この瘴気が治まれば分かるじゃろうが。意外とワシらの近くにいるかもしれんの……」
二月には何と無くだが、妖は自分達のすぐ近くにいるという予感がしていた。
それには理屈と予感がある。
この森の近くに民家があるとはいえ、それは森の中の寺よりは遠い。
もし低級霊などの位の低い妖怪なら、霊能者達の集団などいたら尻尾を巻いて急いで逃げるかもしれないだろうが、鬼やドラゴンに匹敵するような存在が尻尾を巻いて逃げるとは到底思えない。
とはいえ、狙う獲物がいなければそそくさと人気のある所に行ってしまうのは自明の理、それを踏まえて二月は妖が自分達を狙うようにあえて瘴気の中を突き進んで来たのであった。
そして、もう一つの予感なのだが、これは霊能者としての第七感である。
第六感では無くて第七感?っと思うかもしれないが、人というのは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を越えた理屈ではない感覚で物事を察する力があるとされている。
その感覚を第五感と呼ぶのだが、第六感というのはそれらを含まない勘というようなもので表現されている。
しかし、そういうのはまるっきりのあてずっぽうでは無く、第五感で感じて来た経験則からなすものであり、今までの経験則が無意識化に推測が行われ、それが虫の知らせや第六感という形で発揮される。
それが一体何の話に思えるかもしれないが、第六感というのはこの五感の経験則の積み重ねでその精度も上がるのだが、そこで彼らが普通の人間ではなく、霊力を持った人間だという事を意識して貰いたい。
彼らには第五感にさらに霊力という第六感を持っており、しかもそれは自分の生命力を高めたり、周囲の霊を感じたり、その霊力で妖と戦ったりと内外においての強い影響を及ぼすことが出来る。
それは蛇でいうなら夜でも体温で獲物を見つけることが出来る眼、犬なら物に付いた匂いを判別できる鼻、コウモリなら音波を飛ばすことで周囲の状況を把握する耳。




