夢の中16
深い霧に包まれたかのように瘴気に満たされた森の中を、五里霧中で皆が雪を踏みしめて進む。
敵がいるであろう場所にサクサクと雪が潰れる音を鳴らしながら進む。
先程まで降っていた雪が進行に合わせて止んでくれているのはありがたい話なのだが、一陣は新雪によって道無き道にされた場所を進まざるえず、
「二月様、一度休憩を取りませんか?」
「……いやダメじゃ、妖が民家に行ってしまうかもしれん」
「しかし……」
二月は部隊の中央に位置する者の休憩の提案を却下するが、それはどちらも正しい判断ではある。
休憩の提案は足が不安定な状態で突き進まないといけない負担、いつ敵と接敵するか分からないストレス、瘴気を考えれば当たり前の提案。
瘴気というのは簡単に言えば毒ガスだ。
毒ガスには濃度や種類があるように瘴気にも濃度や種類があるが、霊能者というのは自身の霊力のお陰で瘴気に対してガスマスクを着けているようなものなのだが、あまりにの瘴気の強さに霊力が追い付いていないのである。
ちなみにだが、万が一普通の人間がこの瘴気にあてられたら運が良ければ頭痛や吐き気に気絶で済むが、場合によっては精神崩壊を起こしてしまう。
だが、それは霊能者達も一緒、長い時間瘴気にあてられていては普通の人間達と同じ症状が現れてしまう。
精神に肉体の内外に掛かっている負担を考えれば、この瘴気の中と言えど休憩を取ることは十分に意義がある。
彼の休憩を取ろうという判断は間違ってはいないのだが、それが出来ない理由というのは今から退治しようとするモノのせいだ。
彼らが休憩をしているうちに妖怪が民家に訪れ被害を出す……確かにそれも良くない事なのだが、もっと大きな視点で見た時のことだ。
妖怪あるいは化け物、こんなものが現実の世界にいるというのが全世界にばれてしまったら?
その存在には銃器刀剣が効かず、ある特定の人間達にしか対抗出来ない……そんなことがばれてしまったら?
人は今までの通りに生活が出来るのか?それに目を突けて新たな兵器が作られない保証は?それを使った戦争が起きない理由は?
それこそ死んだ人間を化け物に変えたり、妖怪を産み出すために貧困層の人間を殺したりするビジネスが横行するだろう。
そして、この存在に対抗出来るのは特別な力を持った人間達……その特別な人間を作るための非人道的な行いもされる。
彼らがゆっくりするという事は、必ずしも近い未来でそうなる訳ではないが、もしかしたら遠い未来でそうなってしまう可能性があるという事だ。




