黒い海60
身体が自由になっていく感覚、全てが終わった安堵感に眠気が優しく礼人の側に寄って来るが、もう少しだけ、目をつぶって眠る前にしないといけないことがある。
「れ…礼人……」
自分の事を驚愕しながら見る仲間に優しく微笑んでから、
「さぁ、もう大丈夫だよ」
自分の中に溶け込んでいた子供の魂に呼びかけると、
(うん!!)
礼人の中から小さいながらも輝く光が出てきて、先程まで緑色に発光していた大きな羽は、いつもの銀色の光に変わりながら小さくなっていく。
黒い海から、大きな鯉から守り切った子供を両の手の中に収めて、
「……力を貸してあげるから、自分の生まれた世界で還るんだよ」
礼人は一瞬、何かを躊躇うような素振りを見せたが、経文を開いて魂を囲んであげると、神に子供の帰るべき世界へと導くようにお願いする準備を始める。
(あのね…お兄ちゃん……本当はね信じてなかったんだ……)
「…そうだね…自分一人の力だけじゃ危なかったけど、君とみんなの」
(ううん…そうじゃなくてね……アフレクションネクロマンサー様の本当は作り話だと思ってたんだ)
「…………」
子供が、元居た世界に帰る前に話しかけてくる。
(お父さんがね、いつも僕を元気付ける時にね。アフレクションネクロマンサー様は全ての者に平等を与えるために戦った英雄なんだよって……)
「……そうなんだ」
(それでね。アフレクションネクロマンサー様は僕達がどうしても辛くて…悲しくて……どうしようも出来なくなった時に現れて助けてくれるって)
経文の力が段々と高まっていく、そろそろ神様が子供を帰る所に連れて行ってくれるのだろう。
「それが僕……なのかな?」
(うん!!)
「そっか…そう言ってくれて、ありがとう……」
(アフレクションネクロマンサー様……大好きだよ!!)
最後に一言を告げると、子供は礼人の手の中から影が薄れるかのように消えていなくなってしまった。




