黒い海58
この世界に絶対は無い。
二月様とアニーがいた時の部隊に敵等いない…そう思っていたが……
どれだけ絶対的な力を手にしたと言っても、礼人以上の存在がいるのは当たり前、
「本部に連絡をするんだ!!」
周辺の避難は終わっている。
礼人以上の化け物がこっちに向かって来ているのなら、この除霊だけをする部隊では対応するのは……
「こちらに来ます!!」
「くっ……!!」
脳裏にあの時の鋼鉄の巨人が浮かび、それ以上の存在が……
「うっ……!?」
それ以上の存在が黒い海から現れた時、咄嗟に出せたのは小さな声を漏らす事だけであった。
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(長かった……)
黒い海という光が届かない世界でも、出入り口だけはガラス窓を張ってるかのように光を見ることが出来る。
黒い海の中から見えた光に誘われて迷い無く向かうと、何の兆候も無く爆発したかのように一気に明るくなった時には、
(地上に帰って来れた……)
光が、生き物が溢れる世界が礼人を出迎えてくれる。
黒い海に襲われても大丈夫なように広げていた経文を閉じると、生きた心地がする。
温度の無い黒い海の世界、感じるのは自分の体温だけが全ての温度なのに、悪寒のせいで冷えて身体中が強張ってしまうが、そんな冷え切った体を癒すかのように太陽の光が降り注ぐ。
出来るだけ黒い海の邪念を取り込まないように浅い呼吸をしていたから、生き物を生かすための新鮮な空気を胸一杯に吸える心地良さ。
自分は生きて、この世界に帰って来れたのだ。




