プロローグ23
下層市民と比喩される団地に訳アリの、顔にズタズタの傷が残る子供。
誰もが、この子は何かあってここに来たと勘付いて、近付こうとしなかった。
(まぁ…それが幸いしたんだけどね……)
顔に傷がある子供……だったが、子供の回復力と腕の良い医者のお陰で顔の傷は完治し、整った中世的な美しい顔立ちに戻る。
前々では昔話のような、あそこには大層美しい子がいるという噂が立っていたが、団地に来てからは、あの美しい顔立ちのせいで悪戯されたと、中らずと雖も遠からずに、噂が立ってくれたお陰で、前のように目を付けられるような事は無くなった。
「雫さん…やっぱり気にされてます?」
「あっ……うぅん違うよ。その子に付いて、一つ気になった事があってさ」
「その子に……?何があったんですか?」
昔の事なんて特に気にしていない……言われたら思い出して、少し物思いにふけてしまう事もあるが、もう過ぎ去った日の事。
とはいえ、話を切り出した凜にとっては、気にさせたと思ってしまうのも無理の無い話で、
「その子の何だけどさ……」
「はい……」
物思いにふけたのは別の事だと……その子に気になる事が一つあって……
「ジン……」
「えっ……」
雫の目に、ジンが映る。
ずっと探し求めた友達。
どこをどう探しても見つからず、どこをどう探そうと悩んでいたのに……ジンを呆気なく見つけたが……
「ジィィィィンンンンン!!!!!!!!」
彼の名を絶叫する。
「雫さん!?」
突然絶叫した雫に覚える凜だが、そんなのはもう配慮してあげられない……だって、ジンがいる場所は、そこは本来人がいない場所…だってそこは……
「今行くからぁあぁぁぁあぁぁぁ!!!!」
窓の外なのだから。
それは団地ではたまにある事、ここは低所得というか、世界を維持する土台が住む場所。
何かに嫌気が差した人が、窓に映る事がある。
窓の外にはベランダがある、洗濯物を干す時に出る場所があるが、その先には何も無い場所がある。
何も無い空間……人生に嫌気を差した人が、ドロップアウトする場所……そこに居るというのは……
雫は、団地という短いリビングを駆け抜けて、窓に手を付けて開き、ベランダから身を乗り出して下を見れば……
「生まれ変わって…この世界で遊ぼうぜ……雫……」
ハッキリとジンの口が動いたのが見えて……
「うわぁあわぁあぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
ジンの体が地面に叩き付けられ、頭から赤い血がこぼれるのを見てしまう。




