プロローグ22
少年でありながら、トップアスリートと同等の身体能力。
走れば弾丸のように、飛べば風船のように軽やかに、力を見せればライオンのように……まさに、人類の至宝と言えるほどの身体能力であったが、その子は遥かに上をいく。
走ればレーザーのように、飛べば鳥のように、力を見せれば重機のように……完全なる上位互換の存在。
圧倒的な力の差を見せられてた思ったのは、自分はなんて極上な当て馬なんだろうと……ダイヤの魅力を引き立てる為のリング……名画を際立たせる額縁……普通の人なら、あまりの力の差に比べる事も出来ずに、その子の価値を輝かせる事は無かっただろうが……その子に必死に喰らい付いて、大粒の汗を流して、肩で息をしながら、膝に手を付く自分は……
「私…一つ分かる事があるんです」
「分かる事?それは何だい?」
椅子に座っている凜は、指をもじもじとしながら雫の瞳を見て、
「雫さんの過去の事を知っていても、やっぱり思ってしまうんです……ジンと同じで、青い瞳は宝石のように綺麗だと……」
「……ありがとう、僕とジンの瞳は唯一無二の赤と青……この瞳だけは決してナンバー2にはならないよ」
自分の瞳を褒められた雫は、にっこりと笑う。
雫の美しい青い瞳。
それは光が差す海面と、光が届かない海底の狭間のような深く青い瞳。
その美しい瞳に、女性のような中世的な顔立ちは同年代の少女だけでなく、大人の女性すら魅了してしまう。
雫が、この団地に住んでいるのは身分が低いからではない。
その美しい容姿に、とある権力者が男娼にしたいと話を持ち込み、昇進させるという約束で親が了承してしまい……
「それと昔の話はそこまで気にしていないよ。その問題のお陰でこうして団地暮らしが出来て、二人と会えたんだから」
その事に絶望した雫は、ナイフで自分の顔をボロボロになるまで刻んだ。
顔から滴る血は、顔をグチャグチャにして泣く幼子のように滴り、それは大問題になったが、それは社会を揺るがすという意味では無い。
子供だった雫が、顔をズタズタにしてまで嫌がったというのは何ら問題にならなかった。
大問題になったのは、そこまでしてとある権力者を嫌ったという事。
昇進させるという話はお流れになり、親は子供を売ってでも昇進しようとしたと罪を被され、これ以上問題にならないようにと、雫は団地に放り込まれてしまった。




