プロローグ15
無意識の内に……それは別の言い方をすれば、潜在下のもとに拳銃を握り締めたという事になる。
自分の中の本能が反応している。
拳銃を握り締める手は、今すぐに拳銃をホルスターから取り出そうとして、彼を撃ち殺そうとしている。
「何……ちょっとした悪ふざけだ」
「そう?まるで、あなたじゃない……もっと純枠な何かに目を付けられたようで、肝を冷やしたよ……」
「そうかい?なら、悪ふざけのしがいもあったって事だ」
勝手な事をしようとする手を意識で黙らせると、拳銃から手を離させ、陳腐な言い訳と共に笑って取り繕ってみせてから、バックミラーからも視線を外して、意識して前を見て運転をする。
(アタシの中の本能か……)
それは種としての本能、その本能が彼という存在を得体の知れない物として怯えて、拒否している。
ただ、それだけの事……ただそれだけの事で良い……リディが今、種の代表として彼を殺そうとした……考えたい事は沢山あるが、
「さぁ行くぞ……」
考え事は後ですればいい、これ以上時間を取っている暇は無い……ただでさえ、彼の要望で一箇所寄り道をしないといけないのだから。
_______
車は走る。
この鳥かごから地上に向かうのなら、空港に真っ直ぐ向かうべきだが、
「もう少しだぞ」
彼が、ここから逃げる前にどうしても寄りたいと言った場所へ向かうと、
「あぁ…久しぶりだな……ここに帰って来るのも……」
彼の目に映り、彼の口から「久しぶり」と言わせたのは団地であった。
一つの土地に沢山の人が住めるように作られた団地。
長方形の大きな建物が、切り分けられたカステラのように並んでいて、
「お前が住んでいたのはAー10だったな……知ってるか、ここは昔の日本の建物を参考にして作られていてな。その姿を巨体なマンモスに例えて、マンモス団地と呼んだりしていたらしいが……私としては、大きな箱が並んで、そこから人が出たり入ったりする姿は、ミツバチの養蜂箱という方がしっくりくるな」
巨体で簡素な建物の群れの中へと、ハンドルを切って車を向かわせる。




