プロローグ11
「美優!!頼むから、一回それを止めてくれ!!」
「後、もうちょっとだけ!!」
「漏れる!!脳汁溢れるっス!!」
路地裏にいるとはいえ、彼女達の悪ふざけが続けの声が響けば、誰かがこちらを覗いてくるのは必然の話。
誰かに見られたくない状況で、すぐにでも止めさせようと声を掛けても、言う事を聞かずに悪ふざけは悪化していくだけで……
(美優もまだ、やんちゃだからなぁ……)
美優もまだ学生で、大人と言うにはまだ未熟で遊び盛りというべきなのだろう……有り余る体力をミィオにぶつけて遊んでしまう。
口で言って分からないなら、物理的に動きを止めてしまうのが手っ取り早いと判断したリディは、車から降りようとシートベルトに手を伸ばしたのだが、
『ガチャ……』
リディがシートベルトに手を伸ばしたタイミングより、一テンポ早くドアが開く音が聞こえると、
「静かにして貰って良いかな?騒がれると面倒になるかもしれないから……」
彼が車の中から降りて、彼女達の前に姿をあらわにしてしまう。
「うっ…あっ……すみま……せん……」
彼のその姿……患者衣を着て、枯れた樹のように痩せこけた姿。
まるで老人の体かのように、ボロボロな姿は、普通の人なら、その姿を見ただけで、いたたまれなくなってその場を後にしてしまうだろうが、
「……RLH」
美優は彼の事を見て真っ先に思い浮かんだのは、リディが昔に話してくれた、RLに対抗しうる人類の切り札の事。
「……綺麗ッス」
それに対して、ボロボロな彼を見たミィオが漏らした言葉は「綺麗」
彼を形容する時に、何度もボロボロだの痩せこけているなど、彼が不健康そのものな表現をしたのは間違いないのだが、それでも彼には一つ失っていない物があった。
それは燃えるように美しい瞳。
ボロボロで精気を失った体……それを伝えて来たから薄汚れた野良犬の様な姿を想像させてしまったが、それでも彼の赤い瞳は命の象徴は、その想像を覆す。
ブラッドピジョンのように黒みかかった瞳は、命の神秘を体現している。




