プロローグ8
「あぁ、久しぶりだな美優……調子はどうだ?」
彼女こと、リディは手に握らせていた拳銃kら手を離し、自分に挨拶した少女の名前を呼んで、挨拶を返すと会話を自ら返してしまう。
今すぐにでも、この場から離れないといけないというのに、リディの足はアクセルを踏もうとしない。
それは美優と呼んだ少女が、自分が今、為すべき事があるのを忘れてさせてしまう程の人物である事を示唆している。
「調子というと……こっちの事ですか?」
美優は、左手をグーにして自分の右手を叩くと、
「まっ、そっちもだな」
リディは苦笑いをして美優の右腕を見るが、その雰囲気はどこか楽しげで、
「今日はこれからお仕事なんですか?」
「いや、帰りだ」
さっきまでのイライラで疲労していたのが嘘のように快活になる。
「寮近くまで送ってやるから乗りな」
気を許す事が出来る相手に心の隙が生まれて、ドアのロックを外し、美優を車の中に招き入れようとするのだが、
「……アナタにも、気を許せる人がいるんだ」
中に招き入れようとした所で、後ろから彼に声を掛けられる。
「その人を巻き込むって言うのなら乗せても良いけど、大切な人なら止めた方が良いんじゃないのかな?」
彼は、車の後部座席で横になったまま、美優とは顔を合わせようともせずに、巻き込まないように配慮している。
「……そうな」
何の気も無しに美優を車に乗せようとしたのを、分かってやろうとしているのかと問われて、自分の置かれている状況を思い出したリディは、バツの悪そうな顔と声を上げる。
「……お邪魔してしまったみたいですね」
すると、急に声のトーンと雰囲気が変わったのを感じた美優は、車から距離を離そうと足を一歩引かせて……
「アネキ、こんな所で何してるんスか?」
横からアネキと呼ばれたので、車から視線を外して自分を呼んだ声の方を見ると、そこにも一人の少女が立っていた。




