プロローグ5
周囲の目に触れないように、車を路地裏に入れる。
そもそも黒色の車は、この鳥かごの中では要職関係者という事で、おいそれと近付いて来ないが、それでも、それらしくする為に身を隠す。
「それで何だ?何かやらかして部署が閉鎖しそうで、お小遣いでも欲しいのか?」
「ふざけるな!!お前はいつもいつもいつも!!!!!!」
彼女はシートに背中を預け、まるで電話口の相手が目の前にいるかのようにふんぞり返ると、相手もその態度を察したのか語気が荒くなる。
「そうかそうか、じゃあ電話を切るわ。お互いに話をしてもつまらないだろ?そんじゃな」
そっちも話をしたくないだろと、これで話は終わりだと、運転席から腰を上げる音を聞かせて、話を切ろうとする素振りを伝えると、
「いなくなったんだ!!あのガキが!!」
電話口の相手は、彼女の態度に堪らず、子供が駄々をこねるように叫ぶ。
「いなくなった……?いなくなったって彼がか?どういう事だ、説明しろ」
寝耳に水の話をいきなりにされたと言わんばかりに、彼女は声を低くして怒りを露にするが、彼女の表情はほくそ笑んでいる。
向こうの、喉から手が出るほどに欲してる彼が、自分の真後ろにいる事もそうだが、向こうから話題を出させた事で、こちらがまだ、彼が抜け出した事を知らないように振舞える。
こちらが手玉に取った。
彼女が本当に困るのは、あそこで電話を本当に切ってしまって、相手に怪しいと思われてしまうこと。
怪しいと思われない為に電話を取らざるを得ず、怪しいと思われないように話を進めないといけなかったから、向こうからのすがる言葉が出させるか、向こうから電話を切らせる必要があった。
そして、向こうからのすがる言葉を出させた事によって、
「彼は私に協力的だった……何をしたか聞いてるんだよ」
「…………」
「ちっ…くそが」
彼の話をしても不自然ではなくなり、
「電話を切るぞ」
「待て!!あいつが行きそうな場所を教えろ!!施設と周辺を全員で探しているが……」
「ふっ…くくっ……」
「何がおかしい!?事と次第によっては、お前も地上に落とされ……!!」
「地上で生きたアタシに、それが何の脅し文句になるんだ?」
「ぐっ……」
「それと、何時からアタシはあんたの味方になったのさ?」
どれだけ啖呵を切っても、問題ではなくなった。




