プロローグ2
彼を見付けたのは、自分だった。
彼の血から特殊な遺伝子を見付け、その研究の為に彼を研究施設に連れて来たのだが、彼の貴重な血は、他の者達の目にもとまってしまった。
後ろ盾が特に無い自分は、出張という形で地上に飛ばされ、その間に彼は、命と体の限界まで実験を繰り返されていた。
私が無理矢理にでも、彼を連れて地上に行けばこんな事にならなかったのに、それをしなかったばかりに、彼は息も絶え絶えになってしまっている。
「それでさ…夢の中のネズミはこう嘆くんだ……「痛いよ…痛いよ……死にたくないよ……」って、可哀想だよな。その打たれた薬は、死ぬ事でしか苦しみから逃れられ無いのに、生きる事を望む。苦しみから逃れたいのに、死にたくないという想いが枷となる……人の手によって与えられた業なのに、苦しむそのネズミは憐れだ」
「……あたしは、ろくな死に方は出来ないだろうな……覚悟はしている」
少年の言葉は、彼女が奪ってきた命の、全ての生物達の嘆きを聞かされているような気がして、辛くなるがそれでも気丈に振舞う。
そんな気丈に振舞う彼女に対して、彼は目をつぶって弱々しく息を吐いてから、
「あぁ…あぁ……死にたくない……死にたくない……逃げたい……逃げたいよ……」
夢の中で見たネズミの、苦しみの怨嗟を言葉にしていく。
「殺される…殺される……!!死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!!」
彼の口にする怨嗟は、彼女の眉間にシワを寄せるには充分で、
「なぁ、お前には昔話したけど、アタシにはどんな事をしても復讐を果たしたい相手がいるって……そいつをぶっ殺したら、アタシの命なんて、その場でくれてやる」
「…………」
彼女が、命を掛けた誓約を口にした途端に、怨嗟の声を止めて、目を開いてバックミラー越しに視線を合わせて来る。
夢の中で見たというネズミの声を聞かせる事で、彼女に対して罪悪感と罪を償わせるという想いを……
「あなたでも、そんなセンチな事を言うんですね」
そんな想いは無いらしく、彼女のらしくない懺悔と誓約の言葉が面白かったのか、口元が楽しげにほころぶ。




