プロローグ1
「よく、逃げられたわね」
晴れやかなる空に照らされた街を、走る車がある。
「愛想良く振舞っていたから、油断してくれたよ」
「これだから内勤組は」
「そうじゃなきゃ、ここにはいれなかった」
輝く空と光る街並みとは対照的に黒い車の中で、二人が話をしている。
話をする二人。
一人は女性で髪の手入れをちゃんとしていないのか、ワカメみたいに変なウェーブがかかって髪はボサボサしているが、決して不健康という事ではなく、ハンドルを握る手は健康的な肌を魅せる女性。
「夢を見るんだ……」
「夢を見る?どんな」
車の中にいる、もう一人は少年。
少年も髪が酷い事になっているのだが、女性のそれとは違っている。
女性の髪はシャンプーで髪の汚れを落として、トリートメントで髪のダメージを修復をして、コンディショナーで髪の保護をしてやれば簡単に輝きを取り戻す、単なる髪の手入れをしてないだけの話なのだが、少年の髪はボロボロなのだ。
手入れをしていないといえば、手入れをしていないのだが、彼の髪は伸びたいように伸びているのに、所々刈られていて……毛品の為に育てられた家畜なのに、途中で気が変わった主のせいで、毛をいい加減に刈られて放置されているかのような状態であった。
「籠の中に入れられたネズミが、打たれた薬で肉体の内側から苦しみ夢を見たんだ」
少年は後部座席で横たわりながら、痩せこけて、櫛のように細い骨が浮き出ている手で、ボロボロに伸びた髪をすいてから、枯れて干からびた樹木のような腕をさする。
「生物実験をする私には耳の痛い夢ね……君が見た夢は、自分の置かれている状況と施設で見た事がリンクしたから見た夢だと思う」
「ふふっ…そうだな。百点の答えだ……」
女性は運転をしながら、バックミラー越しに少年が弱々しく蠢いているのを見て、彼が何を言わんとしているのかは分かっていた……恨み節だ。




