世界72
それは落下。
重力に誘われて、空を飛べない者が落ちていく現象。
腕を伸ばし、光の繭に指を掛けると、
『ボロッボロッ……』
リーフを運ぶ役目を終えたと言わんばかりに、いとも簡単に崩れる。
光の繭から羽化するように、繭をボロボロと崩して顔を外に出すと、
「くぅ…………あれは……」
外の光が眩しく感じながら、落ちていく先には森があるのだが、少し様子がおかしい。
「廃墟……?」
本国のような大きな街に、大小で広狭な立ち並んでいるのが見えるのだが、木々に飲み込まれている。
そこは人が住んでいる場所というよりは、人が住んでいた場所。
人が住まなくなった住処の成れの果てが、地上一杯に広がっている。
「……とにかく飛ばなきゃ」
寝ては起きて、起きては寝てを繰り返していて、翼を広げるのは久しぶりであったが、
「……マナが溢れている?」
リーフの体の中に駆け巡るマナの清らかで純度の高いこと。
霊力をほとんど使わずに、マナで翼を形成出来るのではと思う程に、綺麗なマナを感じられる。
「凄い……これが礼人の世界……」
光の繭から飛び出し、翼を広げて風を感じながら地上へと舞い降りるのだが、それだけで体が癒されていく。
奴等が言っていた、この世界を奪おうとしていた行為を理解してしまう。
これだけマナに満たされた世界に、みんなが移住出来れば人減らしとか、マナの減少に穢れ、生命の循環……それら全ての問題が解決して……
「何を馬鹿な事を……ここには、奴等がいるはずなんだ」
赤いモノになって、この世界の生命と結合すると言っていた。
自分が、この世界に来るまでにどれ程の時間が経っているのか分からない、リーフは気を引き締め直して、周囲を警戒しながら地上に降り立つ。
地上に降り立って周囲を見渡してみるが、空から見た時と同じ感想になってしまう。
壊れた街、人が住むのを止めてしまった街。
ボロボロに崩れた建物、そのボロボロな建物に絡み付く木々……死んだ街。
草木が生えてめくりあがった道から、土が所々から顔を出す。
ボロボロになってしまった道の上を歩きながら、崩壊した街を探索する。
建物の中に誰かいないか入ってみようとも思ったが、建物の中からも草木が溢れていて、
「そこにいるのは誰?」
人の気配とは違う何かの気配、歪な魂を感じて足を止める。
魂を丸いモノとしたら、それに何かがこびりついている……いや、もう融合してしまっている。
「隠れていないで、出て来なさい!!」
歪な魂を感じる方にアソリティの剣を構えると、
「うぅぐぅぅ……」
毛むくじゃらで、オークのように大きな体を持った生物が姿を現す。
「これが……侵略……」
多分だが、その生物の本来の体では無いのであろう、右腕が異常に発達していた。
「……あなたの魂を解放して、この世界を救う!!!!」
「ぐぅおぉぉぉぉおぉぉ!!!!」
魂の結合によって生まれてしまった化け物、その命を救う為に、リーフは剣を振るうのであった。




