世界60
「このっ……」
リーフの両肩を、両腕を掴み、両足を掴んで赤い沼に膝立ちにさせる。
無理矢理に抑え込まれるその姿は、敵兵に捕まった将が、頭を垂れさせられているかのよう。
「………………」
体を抑え付けられて、身動きが取れなくなってしまったリーフは息を整えて、何とか霊力の回復を図る。
まだ、体の中に赤いモノは染み込んで来ない。
ここで何とかすれば……ここで何とかしなければ、憑り殺されてしまう。
憑りつかれるという事が、どういう事なのかは、礼人が身をもって教えてくれている。
人ならざるモノ、人の認識を越えた化け物。
あれになっては、もう後戻りは出来ない。
はやる気持ちを何とか抑え、霊力を高めて……
『『『ふぎゃぁぁぁぁ!!!!!!』』』
「えっ…?」
気を集中させていたのだが、身の毛がよだつ感覚がして、赤ん坊達が伸ばす手を見てしまう。
赤ん坊達の魔の手は、すでに自分の事を抑え付けているのに、まだ手を伸ばして来る。
殴るなり、叩くなりをするのではなく、手を伸ばして来るのだ。
一体何を掴もうと、何に触れようと……眼前から迫る魔の手の先を見て……
「やめろぉぉぉおぉぉぉぉおおぉおぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
リーフは絶叫する。
迫る魔の手が掴もうとしてるのは、自分の下腹部……いわば、子供を作った器官。
赤ん坊達は、リーフの体を狙うのもそうだが、それよりも先に下腹部を狙う。
「うぁあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
半狂乱になって叫び声を上げる。
それは女性として耐え難い苦痛。
体を乗っ取られるだけでなく、化け物を産む苗床にされる。
考えたくもないおぞましさと、感じたくもない気持ち悪さ。
体を左右に揺らして、赤ん坊達の魔の手から逃れようとするが、両腕を、両足を掴む魔の手を振り払えない。
「してやる……してやる!!!!!!!!!!私が化け物になったら、お前達をこの世界から消滅させてやる!!!!!!!!!!!!」
それは決して脅しでは無い、アフレクションネクロマンサーであるリーフなら、強い意志を持って化け物になれば、一つは願いが叶う。




