世界50
そのリザードマンもまた、一人であった。
連れ去られた友達を取り返す為に、一人、国から飛び出したものの戦争が始まり、身動きが取れなくなってしまったが、その時、運命が回った。
一人のエルフが、群れから飛び出したのを見た。
逃亡兵というには状況がおかしく、敗走というよりは、撤退という状況の中から飛び出した者。
その飛び出した者が無性に気になって、追い掛けて来てしまった。
一人のリザードマンと、一人のエルフが向き合う。
この状況なら、エルフは狩られると震えて怯えるだろうが、目の前のエルフは怯える事無く、リザードマンの事を見据える。
おぼろげな目には生気が無いにも関わらず、自分の事を品定めする。
国から飛び出した者と、群れから飛び出した者に争う理由は特になく。
リザードマンの方が気圧されて、その場を後にしようとした時だった。
エルフが、彼の物を差し出した。
体中の血の気が引きながらも、彼の物をエルフから奪い取ると、エルフは淡々と話し始める。
自分が今までして来た事、自分が預かってしまった事、もう自分には、これ以上の重責に耐えられ無いと。
だからこれを、リザードマンである君に預けたいと。
リザードマンの手が震える。
どれだけ良心の呵責によって懺悔しようとも、友達が死んだ事は変わらない。
胸に渦巻く怒りが、手足を震わせるほどまでに怒りが沸き立ち、リザードマンは、その場から立ち去った。
怒りが生き物となって、自分を支配する。
この怒りを吐き出さなければ、脳が焼けて気が狂いそうになるが、ここでエルフに対して怒りを吐き出したら、この怒り狂う生き物は消えてしまう。
友達が死ぬ原因を作った、あの憎き者を討つには、この怒りを抱き続けなければならない。
怒りに支配された体で、無我夢中にどこまでも走り、次に気が付いた時には、赤い柱が見えた。
赤い柱の下には、白い装束を来た者達が祈りを捧げていて、赤い柱が異質のモノだというのを際立たせる。
いつもなら、そんな危険な所に近付いたりしようとも思わないのだが、呼ばれてしまった。
赤いモノがこっちへと、力を上げるからと、誘って来る。
甘い甘い甘言に誘われて足が、ひとりでに前へと進み、進んで、進んで、知らぬ間に白い装束達の園に辿り着いてしまうと、そのまま赤いモノに連れ込まれて、赤い柱の中に沈んでいた。




