黒い海50
「…………ふぅ」
蛍の光が自分の手の中に戻ったのを見て、諦めた訳では無かったが、自分が自暴自棄になっていたのかと思いながらも、息を吐いて気を取り戻し、
「こっちに降りて来ないで!!」
仲間がここに降りて来ないように大きな声を上げる。
「何かあったのか!?」
「あった!!あったから降りて来ないで!!代わりにマナを……」
「もう落としてる!!」
礼人はその言葉に蛹から目を離し、上を向くとマナが入った小瓶が落ちて来る。
これをずっと待っていた。
最大限自分で出来る事をしながら一分一秒でもと足掻いていたのは、みんなが助けに来てくれると信じていたから。
最後に大きな鯉を始末しようとしたのも、みんながこの黒い海に来た時に大きな鯉に襲われないようにするため。
礼人は器用に片手で蛍の光を浮かべながら、落ちて来るマナが詰まった小瓶を掴み、小瓶を口元の持ってくると蓋をしているコルクを噛んで引き抜いて、中身を一気に飲み干す。
口の中一杯に広がる果実のような甘味、乾いて張り付いていた喉を優しく濡らすと胸元を中心にマナが広がっていく。
「…………」
ほんの少しの間、体が癒されていくのを感じながら息をつき、
「ふぅぅぅぅぅ……」
今度は体に力を入れるために息を整えると、
「終わりにしよう…お互いの為に」
蛍の光を再び両の手で持つと、火のように揺れていた蛍の光が揺らめくのを止めて、水晶玉のような球形状になる。




