世界29
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「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
だから、ここで兵士として役目を果たす……そう決意してから数秒で、兵士としての役目が終わった……あまりにも強過ぎた。
羽を持つリザードマンが羽ばたいて突撃して来て、手を振っただけで、部下達の体が切り裂かれて死ぬ。
服を縫うように、部下達の間を縫って通り、
「た…助けぐぇ……」
『バッギンッ!!!!』
最後の一人は地面に叩き付けて、頭を足で踏み付けて、そのまま頭を粉砕して殺す。
「どうする?」
顔色一つ変えずに、羽を持つリザードマンは部下達を皆殺しにした……あまりにも呆気無く終わった抵抗に、全てを悟った。
「ありがとう……」
「なに?」
詩文は部下達を死地に連れて行く罪悪感で、心が潰れてしまいそうであったが、そんなのは余計な気苦労。
「さぁ殺せ、お前が殺さないなら自死するまでだ」
「…………」
どうせ、いつか殺されていた……自分がどれだけ頑張ろうが、気を使おうが、前線で戦う者は殺されて終わった、ただそれだけの話……それが分かれば、死なせた部下達に対して罪悪感も薄れるという物。
「さよならだ……ゲホッ……」
後は、死なせた部下達が悔いを遺さないように、自分も後を追って死ぬのが、せめてもの慰め。
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「……情報を手に入れられなったか」
情報を持っているであろうエルフは、マナを蓄える器官を暴発させて死んだ。
躊躇う事無く死んでみせたのは、見事ととしか言いようが無く、これでは、どちらが手玉に取られたのか分からない。
「そんなにか……」
唯一分かる事といえば、生きられる方法があったのに、部下達を道連れにしてまで、情報を秘匿したという事だけ。
「どうするか……」
血で濡れている腕を擦って考える。
この先がどうなっているのか、無理をしてでも見に行くべきと思う自分と、拠点を確保して、リディ達の安全を確保するかと悩んでいる自分がいる。
「…………」
この世界の流れは、刻一刻と流れている。
それこそ一日で千秋が流れるかのように、激しく蠢いている。
「…………」
ここで判断を間違えれば、それこそ、取り返しの付かない事態を引き起こす程に、物事が流れている。
「選択か……」
あの時、リディとリーフが話していた事が、ふとっ思い浮かぶ。




