世界21
弾丸の雨に挟まれ、体が血に濡れるまで後少し。
陸に上げられてのたうち回る魚のように、空をのたうち回る羽を持つリザードマン。
自ら逃げ場の無い場所へと向かっているのが分かりながら、成す術無く……
『『『グゥオォォオォォォォォォオォォォ!!!!!!!!!!!!』』』
「なに!?」
もう少しで、羽を持つリザードマンを仕留められるという所で、赤い雲から羽持つリザードマン「達」が急降下して来る。
一体や二体ではない、数十体の羽を持つリザードマン達が、機銃車に向かって突っ込む。
「しまった!!!!」
それは、油断では無かった。
一体の羽を持つ者を見たのなら、それが他にも、何体もいると想像するべきであったのだろうが、想像出来無かった。
あの時、空から舞い降りて来た黄金の姿、それが特別な存在だと……アフレクションネクロマンサーのような存在で、あんなのが何体もいる訳が無いと思ってしまったのが誤算であった。
「いかん!!!!下を仕留めろ!!!!」
新たな羽を持つリザードマン達の襲撃に、機銃車の射線が乱れる。
羽持つリザードマン達の姿を見れば、どちらが指揮を執る者かは判別が付く。
後から降りて来たリザードマン達のその姿は、最初に降りて来たリザードマンと姿が違い、その上で数がいる。
後から来たのは、最初に降りて来たリザードマンの簡易の存在だというのを予想を付ける事が出来るのだが、前で戦っている者達に、その判断をしろというのは酷な話。
前から迫る敵に簡易も何も無い、あるのはこちらに攻めて来ているという事実だけ。
「終わりだ」
射線が上と下で別れる。
新たに迫る羽を持つリザードマンを落とそうと狙っても、空へと上昇されては、いくらでも逃げようがある。
下の方にいる羽を持つリザードマンは、こうなる事を予測していたのだろう。
厚い弾幕の中で右往左往して耐えていたが、薄くなった弾幕の前では、もう時間稼ぎをする必要は無い。
羽を羽ばたき直すと、薄い弾幕を避けながら、一気に加速して突撃して来る。
戦況は、一気に覆った。
兵力を考えれば戦う事も可能だが、このように戦場が乱れてしまっては手遅れ、願う事があれば、羽を持つリザードマン達が、大した事の無い存在、単なるハリボテだという事だが、
「……敵は平原を抜けて来る。この事を本隊に伝えれくれ」
「撤退は出来無いのですね……」
「勝てないなら、時間稼ぎをする。それが我々の使命だ」
「分かりました、私も後から追います」
「そうか……すまんな」
その希望が、絶望という闇に包まれた自分達を照らす事は無かった。




