黒い海48
一方的な狩りが変われば、戦い方を変えるのも当たり前。
吐き出していた触手を口の中に戻す……のではなく、吐き出した触手を自分の所まで戻してくると、吐き出した触手は強靭な糸となって、自分の体に絡まる。
それはイモムシが蛹になる前の動作に似ていた。
大きな鯉は体をくねらせて黒い触手を纏っていく。
(……あぁ)
経文が黒い海で歪まれた時は一切気にも留めなかった礼人が、自分の足元で蠢くモノには気を向けざるをえなかった。
自分の手の中で作っている蛍の光……それはさっきまでの大きな鯉なら間違い無く消滅させることが出来たが、
(牙を向けたらここまで凶悪な存在だったんだ……)
身を固めていく大きな鯉は先程までの柔らかいイメージは無くなっていた。
礼人の中に流れ込んでくるイメージは鋼鉄のように固く、とどまる所を知らない禍々しいモノ。
それは時間が経てば経つほどに強固になっていく。
(……ここが限界か)
礼人の手の中で作っていた蛍の光は結局、形になることは無かった。
霊力とマナと魂の生命力を合わせるというだけでも無茶苦茶なのに、それを形にするには時間も鍛錬も何もかもが足りない。
時間が経てば大きな鯉は強くなり、礼人にはこれ以上の先は見込めない。
そうなっては、ここで決着を付けなければならない。
(今なら充分にやれるけど…)
礼人は手の中で踊る蛍の光を、大きな鯉の蛹に向ける。
形を整えることが出来れば、光の矢のように狙いを付けて撃つことも出来るが、
(うっ…んっ……!!)
こんなに揺らめいでいては、空から落ちた木の葉のようにゆらゆらと舞い落ちて、狙って当てることは出来ない。




