黒い海42
何が何でも捕まってはいけない。
礼人は貴重な力を使って一気に舞い上がったお陰で、大きな鯉が通り道から二層目に差し掛かっているのに対して、二層目の中間まで移動することが出来た。
早く二層目と一層目の通り道に、少しでも早く泳がないと……距離が出来るだけ詰められないように泳ぎながらも、
(なんでなんだ…!?)
黒い海から、自分達を守ってくれている経文を睨む。
さっきの時もそうだった。
経文は幽霊の血管が伸びて来ても、触手が伸びて来ても自分達を一切守ろうとしてくれなかった。
あれほどの存在が経文を突き破ったのなら、間違い無く経文を通して自分の中の霊力が反応する。
それなのに経文は何も問題が無いかのように反応もしなければ、抵抗することも無い。
しかし、黒い海からは自分達を守ってくれている。
何がいけないのか__?
その原因が分かれば生き残れる確率も上がると考えていたが、黒い海を見上げながら掻き泳いでいた時にふとっ思い出すことがあった。
「礼人、知っておるか?」
じいちゃんが昔、自分に話してくれたことをふとっ思い出す。
「大きな鯉をみんなは妖怪じゃと言っておるが、ワシはもしかしたら神様の遣いなのかもしれないと思っておるんじゃ」
「幽霊や妖怪を産み出す存在が?」
「そうじゃ、幽霊や妖怪を産み出してしまうのは事実じゃが、それは苦悶の海になってしまったものを救うため……それをワシらは手伝っておるんではないのかと思っているんじゃ」
「う~ん……」
その時は、幽霊や妖怪を産み出す存在が神の遣い何てあり得ないと思って、じいちゃんの答えに応えることが出来なかったが、
(神の遣いだから…経文をすり抜けてくるのか……?)
今なら、その考えを肯定することが出来そうであった。
妖怪だからこの黒い海の中にいられる…ではなく、神の加護があるからここにいられる……
妖怪だから幽霊や妖怪を産み出せる…じゃなく、神に遣わされた存在だからこそ、新たな命を産み出せる……




