黒い海40
礼人と子供の意思が一つになる。
救う側と救われる側。
なんとかしたい、なんとかされたい。
助けたい、助けられたい。
見捨てるか、見捨てないで欲しい。
先ほどまでの表裏一体ではある考えが、表と裏に別れた考えが一つになる。
現世に帰る。
表裏が無くなって一つの願いになった時、それは形になる。
手の中で守っていた子供が溶ける。
守られていた子供が手の中で溶ける。
子供は突然形を無くして溶けてしまったが、
(これは?)
形を無くした子供は無と還ったのでは無い、同じ想いが力となって礼人の中に溶けていく。
溶けた魂が礼人に染み込んでいく。
それは二月の霊力を授かった時は違う感覚、霊力ともマナとも違う、命が満たされていくような感覚。
この危機的状況で力を得ることは素直に嬉しいことであり、さらに子供は黒い血管の先と、光の剣で傷つけた所をカサブタをするように体の一部を溶かして残してくれていた。
縛っていた魂が礼人と同化したことによって、黒い血管は経文の中でゆらゆらと揺れる。
魂に絡みついていた黒い血管に礼人を足止めする術は無い。
礼人が羽を羽ばたかせて現世へと向かって力強く泳ぐと、黒い血管は経文の中からズルっと抜けて、そのタイミングで黒い血管が抜けた所から、中に溢れた幽霊の血を吐き出して黒い海が侵入してこないように塞ぐ。




