異世界のアフレクションネクロマンサー629
(くそっ!!)
こんな穢れたモノに魅力を感じ、心を奪われてしまった。
「大丈夫なのか?」
ビレーが心配して手を伸ばして来るが、
「私に触らないで…あくまでも…どれだけの濃さがあるのかを調べる為に、わざと触ったんです」
「そうか……あまり無理をしてくれるなよ」
その手に触れる事無く、壁の方へと身を躱す。
息を整え、気をしっかりと繋ぎ止めて、周囲にあるモノが幻ではなく、確かにここにあるのを確認してから、
「……拠点の中の安全を確認出来たら、フレンさんをここに呼びましょう」
部屋を後にするのであった。
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「これが、鉄騎兵を動かすモノか……おどろおどろしいモノなのだな」
「はい、間違って触らないようにしてください。私は大丈夫ですが、皆さんが触ると、意識を奪われて昏倒してしまうかもしれません」
フレンは、礼人に言われた通りに触ろうとはしないが、それでも出来るだけ全体像を見ようと近付く。
散々、自分達の事を苦しめた鉄騎兵の源……ニードゥス様から確保して来いと言われたモノがここにある。
初めて見た、怨念の原液に感じたのは、底の見えない井戸に溜められた腐ったマナ。
暗くて…深い……と感じさせる濃いモノ……
(ニードゥス様は、これを使って……)
興味が湧いて来る。
もし、この黒いモノを使ったら、どんな力を手にする事が出来るのだろうか……樽を満たしている黒いモノが、絹のように美しく煌めいて……
「フレンさん、ダメですよ。触ったら数日は悪夢を見ますよ」
手が無意識に、黒いモノに触れようとしてしていた。
「これは目に毒ですね。蓋をして封印します」
「あっ…あぁ……頼むよ」
もう少し手を伸ばせば届くという所で、礼人が横から体を割り込ませて樽に蓋をする。
礼人の、黒いモノが満たされている樽から遠ざける動きに、一歩二歩と後退りして距離を空けた。
礼人は、フレンにベルガ、ビレーとリーフと、樽と距離を取らせてから、
「それで、聞きたい事が」
「……何だい?」
「私は、これこそが罠だと思っています」
「罠?」
自分の背中にある樽を、軽く小突いた。




