異世界のアフレクションネクロマンサー628
(また、ここに来る事になるなんて……)
礼人が、初めて辿り着いた場所。
鉄騎兵を作る為に赤いモノを集めて、熟成させる部屋。
天井から、透明なチューブらしき物が壁伝いに伸び、食虫植物のウツボカズラのような丸みを帯びた、透明な袋のような物に、赤いモノが液体になって溜まっている。
逃げ去ってから、日が経っているというのに、この部屋はあの時のままで、自分が突き破った所もそのままに、残されている。
まるで懐かしい物を見るように、一つ一つを確認し、アンティーク品を扱うように、丁寧に触って確かめる。
壁に蓄えられている透明な袋に、赤いモノが順調に集まっている。
「……楽しみだ」
礼人は笑う。
瓶の中に詰め込んだ若いワインが、いつの日か成熟するのを、心待ちにするソムリエのように……
「さて…あっちはどうだろう」
壁に蓄えられている赤いモノが順調なのは分かった、それならもう一つのモノも確認しないといけない。
部屋の奥に、いくつか並べられているタルの中から迷う事無く、一つのタルを覗き込みと、タルの中で赤いモノが熟成されて、黒く輝いている。
「素晴らしい……」
まるで宇宙の神秘を視ているかのよう…心が引き込まれる……手をお椀のようにして、黒い液体の中に沈めて、黒いモノを掬い上げて……
「それは、触って平気なモノなのか……?」
「えっ……?」
ビレーの声に、意識が黒いモノから離れると、手の平の中には、おぞましい黒いモノが絡み付いている。
「くっ!?」
自分で触ってしまった、黒いモノを祓いながら、後ろに引き下がる。




