異世界のアフレクションネクロマンサー589
本当なら、見送りの前々日には祭りが行われる事で英気を養い、前日には家族でゆっくりと過ごす事で気を鎮める。
そうして心身共に満たされた状態で出立するのだが、今回は声援だけで戦場に向かう形になる。
けれど、出立する前から疲労が見える兵士達の心を癒すには十分な力がある。
それに、闇から闇へと紛れて戦う礼人にとっては、こんなに大手を振って見送って貰える経験など無く、少し照れてしまう。
「……嬉しい限りです」
「きっと、みんなの声援が私達を加護してくるはずです……さぁ、籠に乗って下さい」
リーフに誘われて二人で籠に乗り込むと、車輪が動き出す。
自分達に声援を送ってくれる人達に笑顔を振り返す。
一人一人の顔を確認し、一人一人丁寧に手を振り返し……
「リーフのお母さんって、エルフの方だったんですか?」
「えっ?はい、そうですが?」
自分を見送る人達を見ていて、どうしても拭い切れない違和感を覚えてしまう。
リーフは、礼人の質問の意図が分からずに、首を傾げてしまうが、
「それだったら、ベルガさんとビレーさんの奥さんは?」
「ベルガさんとビレーですか?いえ、二人の奥様はサキュバスですが……何かそれが?」
「いえ…ちょっとだけ気になったので」
礼人は、お構いなしに質問して、一人納得すると再び手を振り返す。
「そうですか……」
家族構成を聞かれたというよりは、何となく聞かれた感じではあったが、アフレクションネクロマンサー様が気にしたという事に、リーフは少し引っ掛かるものがあったが、それでも聞く事はしなかった。
(そんな事が有り得るのか……)
自分達を見送ってくれる人達に手を振りながら、礼人は前々から気になっていた事を考える。
自分達の事を見送ってくれる彼等と彼女達……彼等の方はドワーフにエルフにオークなのだが、見送ってくれる彼女達の方は、エルフとサキュバスしかいないのだ。




