異世界のアフレクションネクロマンサー572
手にするはずの無かった翼、知るはずの無かった飛ぶこと。
神の手違いで、全てを失った物を取り戻したエースパイロットには、地上からの囁き等に、耳を貸したりしない。
空から地上へではない、空から低空飛行で、地上の空を舐めるように飛ぶ。
超弩級ドラゴンが固まる。
逃げ出したはずの物が、眼前にいる。
何もいなかったはずの地上に、物がいる。
何をしたのか、何をするのか……少し考えてしまったが、それがエースパイロットが欲しかったこと。
二回目の突撃を、成功させる為に必要だったこと。
ほんの少しの間、ほんの少しの考え……それらが、ほんの少しの答えを遅らせた。
空を飛ぶ物の真意に気付き、手を胸に持っていこうとするが、ほんの少し遅かった。
戦闘機は、超弩級ドラゴンが胸を押さえるより速く、空を飛んだ。
赤い洞穴の中へと入り込む。
多くの仲間達が、死ぬ事で作り上げた秘宝への道。
これから死ぬが、走馬灯を見る事は出来ない……戦闘機があまりにも速すぎて。
出来る事は……笑みを溢すだけ。
超弩級ドラゴンの胸で爆発が起きると、叫び声が響く。
それは、超弩級ドラゴンの心臓に、人間の手が届いた合図。
空に響いた叫び声を皮切りに、街から戦闘機が飛び出す。
最後のダメ押しをする為の爆撃機。
数十機の爆撃機が空を覆い尽くす、超弩級ドラゴンにトドメを刺す為に。
これで決着が付く…これでこの物語は終わる……はずなのに、今度は超弩級ドラゴンが笑った。
心臓を壊されて、命が終わるが、それでも肉体に流れる血が、まだ命を繋ぎ止める。
ゆっくりと手足を動かす、一歩一歩前に出る。
動く自分を仕留めようと、空を飛ぶ物が迫って来るが、恐れる事は無い。
トドメを刺そうと、空を飛び出して来た……トドメを刺そうと、空を飛び出したのだ。
自分を殺そうとするのなら、地上を飛ばないといけないのに。
地上から群がるように飛んで、手を破壊して、胸を壊せば、すぐにでも殺せるというのにしてこない……いや、出来ないのだろう。
地を空にして飛べる者がいないのだ。




