異世界のアフレクションネクロマンサー556
ここまで辿り着いた時、悔しかっただろう。
扉があるのに、叩けなかったのだから。
ここまで辿り着いた時、望んだのだろう。
誰かが代わりに、扉を叩く事を。
絶望を抱きながら、希望を望んで。
ドラゴンの白い目が、開かれた。
こちらを見ている。
また、人が命の財宝を狙いに来たのかと、睨み付けているが、こちらは微笑む。
呼ばれていなかろうが、関係無い、扉の前に立っている。
長い物は心臓には触れていないが……届く。
睨み付けてくるドラゴンに、微笑を浮かべて挨拶をしてから、ノックをする。
長い物が跳ねるのと同時に、ドラゴンも跳ねる。
腕が抜けてしまいそうになるが、遅れながらも跳び上がって喰らいつく。
何が起きたのか分からずに驚いて、ドラゴンが目を白黒させる。
心臓という秘宝を叩かれるなど、有り得ない話だが、体の中で異変が起きているのは事実で、その原因は、胸に手を突っ込んでいる人間。
理由等どうでもいい、人間を胸から引き抜こうと前脚を伸ばすと、また心臓が跳ねた。
2回、扉を叩いた。
左手に握り込んでいる弾丸は、後1つ。
2回のノックで、赤い洞穴から、血が溢れ出ると、燃えているかのように熱い。
手を、腕を、拒むかのように、血が燃え盛っている。
腕を引き抜かないと、焼かれてしまいそうだが、3回目のノックで秘宝が壊れる……そう信じて、3個目の鉄の塊を入れようとしたが、ドラゴンの前脚が、体を叩いた。
心臓を傷付けないように、ゆっくりと引き抜くのとは違う、引っ付いた虫を払うかのように。
体が飛ぶ、見えない力に押され続けて、宙を浮く。
このまま、遠い地まで、吹き飛ばされてしまうと思った次の瞬間には、地面が目の前に広がっている。
長い物を放り出して、腕を曲げて顔を守ると、地面にぶつかる。
無意識ながら、顔だけはしっかりと守り、大地をゴロゴロと転がる。
ゴロゴロと体が地面を転がれば転がる程に、勢いが弱まり、コロコロとビー玉を転がす程の勢いになると、うつ伏せになって地面に横たわるのであった。




