異世界のアフレクションネクロマンサー555
鳴り響いていた、弾薬の爆ぜる音が止んで、静まり返る。
あれ程、鳴り響いていた音が静まり返り、周りの兵士達の固唾を呑むのを感じる。
あの男の意思を引き継ぎ、ドラゴンを殺して、英雄になれるかの一戦。
名誉は……そこまで欲しくない。
望むのは、あの男の勇ましい姿を、自分と1つにすること。
ドラゴンを恐れない姿、立ち向かう姿……これからの戦いに必要な力。
暴れていたドラゴンが、周りが静かになった事に気付くと、上げていた前脚を、地面に叩き付けるように下ろすと、地面が揺れて、足が震えたが、臆病風に吹かれたのではない。
地面が物理的に揺れたから、震えたに過ぎない。
怯えている暇は……ある。
ドラゴンが前脚を下ろしてから、目を見開く、ほんの隙間。
そこを、怯える事に使うというのなら、怯えている暇はある。
だが、ドラゴンを討つなら、その時間の使い方は出来ない。
与えられる時間は、1つしか選択出来ない。
怯える事に、隙間を使えない。
目を閉じてもいけない。
目の前には、ドラゴンの命が隠された、赤い鍵穴がある。
ドラゴンの眼が白いうちに、手にしている鍵を挿し込むと、すんなりと入っていく。
鍵穴を作る為に、命を掛けた者のお陰で。
奥へと奥へと、鍵を押し込む。
勇なる者が、突き進んだ道をなぞって。
まだ、ドラゴンの瞳は白い。
白い瞳が開く前に、命の扉を開けなければならない。
赤い鍵穴は温かい。
命の温もりを感じる。
命が溢れてくる。
手を伸ばせば伸ばす程、温もりは熱くなり、命が燃えているのを教え、遂には、鍵が震える。
ドクンッドクンッと、震える命に、鍵が震える。
勇なる者が辿り着いた、命の扉の前……確かにそうだ……剣では届かない。
踏み込む事が出来れば、命を壊せただろうが、それが出来なかった。
だからと言って、最初から鍵を挿し込めたかといえば、鍵穴は存在していなかった……
剣で鍵穴を作らなければ、命の扉に辿り着けなかった。




