異世界のアフレクションネクロマンサー554
中腰から、姿勢を正して一気に走り出す。
狙うは、あの1ヶ所。
ドラゴンの前に出る事は出来ても、顔に集中する弾丸に、ドラゴンが暴れる。
暴れ馬の様に荒れ狂うドラゴン。
前脚を上げて、胴体を浮かせる。
これでは、狙う事が出来ない。
トドメを刺すには、心臓を潰さないといけない。
暴れ狂うドラゴンを、落ち着かせる方法を考える……必要は無い。
ドラゴンが暴れ狂うのは、顔に弾丸が集中しているから、それさえ止めてしまえば、ドラゴンも落ち着くだろう。
しかし、それが意味するのは、ドラゴンを苦しめている援護を止めさせるということ。
勝負は一瞬になる。
攻撃が止めば、前脚を地面に付けて目を開く。
その合間を狙う。
前脚を地面に付けて、目を開く合間を突く。
想像は付いている……息を整えて、覚悟を決める。
ここで尻尾を巻いて逃げる事は出来るが、そんな事はしない。
長い棒を脇に抱えて、開いた手を掲げ、合図を送る準備をする。
暴れ狂うドラゴン、それを止める為の合図。
異国の者である自分と、何かしらの取り決めをしている訳では無いが、それでも意図を汲んで、顔を強張らせている。
唯一の希望であった指揮官を失い、戦う方向を見失ったけれど、新たな希望がいる。
1度は救いを求めて逃げ出した者が、指揮官の意思を引継いで、立ち向かおうとしている。
希望の者が、手を握りしめたその時、自分達がする事は、銃を撃つのを止めること。
ドラゴンの顔を狙いながらも、希望の者が掲げた手に集中する、タイミングを間違わないように。
銃を撃ち、腰のポーチから弾丸を取り出し、弾を込めて……いつもして来た事なのに、緊張で手が震える。
初めてのドラゴン殺し、希望の者を失うかもしれない恐怖。
銃手達の緊張が高まり、これ以上は手元が狂ってしまうかもしれないという所で、希望の者の手が握られる。
今か今かと待っていた銃手達の手が一斉に止まる。
弾丸の雨が止む。




