異世界のアフレクションネクロマンサー553
同じように、長い棒の取っ手を掴むと、カチャっと動き、空間がある。
そこに、鉄の塊を入れると綺麗に収まる。
取っ手をもう一度掴み、カチャッンと鳴らして、鉄の塊と自分の勇気を閉じ込めると、勇気ある男の姿を思い出す。
ドラゴンの胸に剣を突き立て、心臓を貫こうとした姿。
自分には分かる……後1歩だったのだ。
剣の先に脈動を感じ、もう少しの何かがあれば、剣先は届いたのだ。
だから、死ぬ運命と、生き残れるかもしれない運命という、運命の天秤が掛けられた。
今からしようとする事は、本来、自分がする必要が無い事。
運命の天秤を預かり、傾けるのは、勇敢なる男の雛達……けれど、こういうのも良いのかもしれないと思える。
血が繋がっていなくても、同じ国に生まれていなくても……1度は怯えて逃げ出したとしても……意思を継いで、もう1度立ち向かうのも許される。
亡骸のポーチから、残りの弾丸を握り締め、ドラゴンの方を振り向く。
ドラゴンは前からの弾丸に気が向いて、横に外れた自分には気付いていない。
長い棒の様な物を胸に抱え、身を屈めて、中腰で走る。
この武器が、遠くから使う物だと見て分かっているが、それでもドラゴンに近付く。
離れて心臓を撃ち抜けるなら、他の者達が、すでにそうしている、そう出来ないから、逃げている。
やるには、見様見真似しかない……あの男の様に。
自分が、ドラゴンに向かっているのに気付いた兵士達が、撃つのを止めようとしたが、続けてくれと手を仰ぐ。
まだ、この距離では仕留められない、もっと近付かないといけない。
こちらが何をしようとしているのか、勘付いた兵士達は、バラバラに撃っていた弾丸を、ドラゴンの顔に集中させてくれる。
ドラゴンは、顔に集中する弾丸に、まるで雨がぶつかって来たかのよう目を細める。
弾丸の雨。
弾丸を防ぐ為に、白い膜を覆って目を守ってるのに、目を細めたら、さぞ見にくくなるだろう。




