異世界のアフレクションネクロマンサー551
怒りに満ちた瞳、熱く荒い息遣い……けれど、こちらの体は冷えて、青ざめていく。
このままでは、殺される。
仲間に指示を出さなければ、殺される。
ドラゴンを撃てと、気を散らしてくれと、この殺意を分散してくれと頼まねばならないのに……唇が震え、喉が渇いてヒリヒリする。
死が、こちらを覗いている。
先程までの威勢が、どこかに消えてしまう。
命を握られるというのが、これ程までに恐ろしいなら、心臓に剣を突き付けられた、ドラゴンの怒りも納得出来るというもの。
目を閉じて叫ばなければ、助けてと、どうにかしてくれと。
最後の力を振り絞って……心臓を撃てと雄叫びをあげた。
最後の力を振り絞った時、冷えた体から、最後の勇気が溢れ出た。
ドラゴンを討てと、名誉を手にしろと……その言葉を、ドラゴンが分かるはずは無いのだが、ドラゴンは怒り狂って指揮官を地面に叩き付けて、踏み潰す。
それは一瞬の出来事。
勇猛果敢に最期の時まで、悲鳴を上げる事無く、雄叫びを上げていた指揮官が死んだ。
時が止まる。
指揮官の死は、敗北を意味していた。
指揮官にとって代わって、指揮を執れる者はいる……しかし、ドラゴンと戦った者は、ここにはいない。
指揮官に代わって、指揮を執れる者が叫ぶ……撤退しろと。
後もう少しで、ドラゴンを倒せる所まで追い詰めているのに、逃げろと叫ぶ。
後もう少し、後もう少し後押し出来れば、心臓に届くというのに……それを知っているのは、死んだ指揮官だけ。
周りの銃兵達には、後一歩なのか二歩なのか……どれだけ追い詰めていたのか、知る由もない。
全員で胸を狙えば、もしかしたら心臓に弾丸が届くかもしれないのに、撤退する為にバラバラと飽和射撃をしてしまう。
1度は集中した射線が、意思がバラけてしまう。
死の一歩手前まで追い込まれたドラゴンが、息を吹き返す。
殺す為の弾丸と、逃げる為の弾丸は違う。
弾丸が体にめり込むが、致命傷になる場所ではない。




