異世界のアフレクションネクロマンサー550
弾丸によって穴がだらけになった胸は、肉叩きで叩かれた肉のように柔らかくなっている。
突き刺さした剣が、みるみるドラゴンの胸に突き刺さる。
このままいけば、このままなら、ドラゴンの胸を貫ける。
心臓に剣が届けば、それで終われる。
剣の先が震える。
ドラゴンの命の脈動によって。
ドクンドクンっと、響いてくる心臓の高鳴りに、剣が震える。
後もう少しで、勝利を手にする事が出来る。
心臓に届けと祈り、剣の先を突き付けるが……届かない。
祈りも、剣も。
何が足りないというのだ。
覚悟?執念?祈り?願い?
足りない物があるというのなら、いくらでも注ぎ込んでやるというのに……
傷付いていない、ドラゴンの胸の内は阻まれて、剣が届かない。
ドラゴンの手が伸びてくる。
剣を離さなければ、殺される。
手を離せば、もう一度チャンスがある。
無駄死にする事はない。
このままでは蛮勇だ。
死ぬ気でというのは、あくまでもその気という事。
ここで、剣を放してしまえば、まだ逃げられる。
指揮官は、手にしている剣から……力を込める。
全てを注ぎ込んで。
覚悟を決める、執念を燃やす、死んで逝った仲間達に祈り、あの世で仲間達と出会える事を願い……最後の力を、足りない力を振り絞る。
伸びてくるドラゴンの手から逃げない。
掴んでいる剣を手放さない。
ドラゴンだって理解している、剣の先が心臓に届きそうになっているのを。
人間を叩き付ければ、剣が心臓に届いてしまう。
だから、心臓に届かないように引き抜く。
体に刺さった針を抜くように、人間を引き抜いていくと血が溢れる、ドボドボと血が垂れながら。
傷が広がる。
指揮官は、体を握り潰されながらも、剣を握り締めて回していく。
傷付いていない肉を、傷付ける方法。
振り絞った最後の力で、決して剣を手放さない。
ドラゴンが、体にめり込んでいた人間を引き抜くと、真っ赤に染まった剣が抜かれる。
無事に異物を引き抜いたドラゴンは、手の中にいる人間を睨み付ける。




