異世界のアフレクションネクロマンサー536
騒々しかった戦場が、静寂に包まれる。
屈服させたはずの王が、帰って来る。
奪ったはずの世界が、奪い返される。
そして……地獄が始まる。
あれほど頭を働かせて、陣形を、前衛を、大砲を、牛歩をとして来たのに、ドラゴンの前では全てが無意味。
大地に降り立てば、人は踏み潰されて死に、腕を振るえば、切り裂かれて死に、尻尾を振るえば、砕けて死に、口から煌めく炎を吐けば、大地と一緒に焼かれて死ぬ。
あまりにも容易く、あまりにも無慈悲に、人が簡単に死ぬ。
頭を使う事等、何一つ無い。
策を弄する意味も無い。
力を振るう、それだけで全てが統べられる。
圧倒的力、圧倒的存在……それを人は、ドラゴンと呼ぶ。
敵も味方も存在しない、存在するのは餌食になるか逃げ切れるかだけ。
戦場が無くなって、狩場になってしまった場所を、観察する為の羽目になってしまった男と兵士達。
兵士達は、去ったはずの脅威に震えながら、人が殺されていくのを見届ける事しか出来無い。
逃げ惑う者達を助けようと、大砲を扱っている者達がドラゴンを狙うが、それが怒りを買う。
一発の砲弾が、肩に当たる……当たってしまった。
その一発は、ドラゴンを殺す程では無いが、間違い無く痛みを与えてしまう。
ドラゴンの目が、大砲を睨み付けて、宙に浮かぶ。
次の弾を装填するよりも早く、ドラゴンが頭上に来ると、殺された。
出来ない……助ける事も立ち向かう事も。
兵士達に出来るのは、男を連れて安全な場所に逃げ出す事。
兵士達は、男に声を掛けてその場から逃げ出そうとするが、男の目は、この絶望と死で包まれた世界を、怯えすくむ事無く睨み付けていた。
それから、地獄から生きおおせた者達が、街に帰って来ると絶望が街を包む。
追い払ったはずのドラゴンが帰って来てしまったと、手にしたはずの世界が奪い返されたと。
街がまた、ドラゴンの恐怖に苛まれる。




