異世界のアフレクションネクロマンサー529
王の真意に気付いた男は、躊躇う事無く跪いた。
それは権威に対する屈服で無ければ、事を治める為の動作でも無い。
この場で、心乱していないという事を証明する為に。
罵声の嵐、戸惑う者達、その中で男だけが、王という太陽の光に一早く気付いた。
そして、戸惑う者達は男に導かれて太陽に跪き、罵声の嵐も、男が誰よりも早く、太陽に敬意を示した為に、これ以上吹き荒べば、王に対しての侮辱だけでなく、男は敬意を払っているのに、自分達は出来ないと、自分達の品位すら貶める事になる。
遅れて、家臣の者達、付き人達も跪くと罵声の嵐は鎮まり、王も掲げていた右手を、椅子の肘掛けに戻すと、皆の顔を眺めてから、王の間で騒いだ事を責めない。
罵声が飛んだものの、それが、決して私利私欲じゃないのは理解している。
王の為に、男の為に、命令の為に……王は、何も言わずに不問に処すと、男に問い掛ける。
これから発言をする権利を与える、しかし、その発言が戯言だった場合は処刑すると、けれど、ここで何も発言しなければ、一切の罪を問わず、今までの謝礼を用意して帰すという。
それは、男に対して選択を選ばせて、決意の程を確認しているかのようであったが、この問いの本質はそこでは無い。
男が、黙ってここから去らずに、必ず言葉を発するのは分かっている……それでも問うたのは、王が男をどれだけ信頼しているかを示し、男もまた、どれだけ信頼に値する者かを示させるため。
男は迷う事無く口を開く、誰も想像の出来ない、想像をした事の無い話を、空を飛ぶドラゴンを堕とす方法を。
王の間に、男の言葉だけが聞こえる。
誰も口を挟まない、王が、さえずりを心地良く聞いているのを邪魔しない為に。
まるで夢のようなさえずり、けれど、このさえずりには魅力がある。
王が、静かに聞き入るのと同じように、皆が男のさえずりに耳を傾けると、頭の中で、男の思っている事が情景として浮かぶ。
空を飛ぶドラゴンを堕とす、気球が浮かび上がってくる。




