異世界のアフレクションネクロマンサー506
抱き寄せた人間の体は重くて、力が無い。
抱き寄せられるがままに、抱き寄せられて、頭が後ろに倒れる。
「おいっ!!おいっ!!」
半壊した兜から覗く表情は、少し笑っているが生気は無く、どれだけ声を掛けても、微笑みが崩れる事は無い。
「バカ野郎!!勝ちを譲る奴があるかよ!!」
自分が勝ったと思っていた……肉体の限界を越えて、それでも生き延びようと必死に足掻いて……人間の姿になる事で、僅かな時間とはいえ生き延びたのだから、自分が勝ったと思っていたのに……
「吸おうと思えば吸えたんだろ!!俺の命を!!」
人間は、さらにその先を行く事が出来た。
「なんで話し掛けて来た!?黙って俺の命を吸えば良かったじゃないか!!」
命を捧げる事が出来たのなら、意識を失って無抵抗になった自分から、命を奪い取る等造作も無い事で、あの世界に自分の事を呼ばなければ、この世界で生きていのは……
「なんでだよ……」
負けた方が死ぬはずだったのに、負けた自分が生かされ、勝ったはずの人間が、息を引き取って……なぜこんな結果になってしまったのかと、途方に暮れてしまう。
(勝ちを譲る意味は?敗北して得られる価値?種族の違い?人間とドラゴンだから?)
そんな事が頭の中でグルグルと廻ると、眩暈がして自分の顔を手で覆う。
自分には分からない価値観…自分の知らない誇り……勝つ事以外の何か……目をつぶり、何でも良いから答えを出そうと苦しんでいると、
「生まれの…違い……」
一つの言葉が漏れると、目が開き、
「待ってろ!!すぐに連れて行ってやる!!」
羽を広げて、崩壊した街を飛ぶ、癒えたばかりの体を全力で奮わせて。
目指す場所に向かって一直線、迷う事は無い。
崩壊した街並みが横目から後ろに流れて行く、
「俺達にはドラゴンも人間も関係無い!!」
今からしようとする事は、本来ならドラゴンとして許されない事……しかし、自分達二人にとってはもう関係無い。
なぜなら、自分達二人は命を掛けて全力で戦い、命を分け合った仲なのだから。




