異世界のアフレクションネクロマンサー504
「ははっ、わりぃな」
差し出された赤い飴玉を受けとると、赤い飴玉は見惚れる程に、ルビーの様に輝いている。
「…………」
初めて、人間が装飾物をありがたがる気持ちを理解出来る。
今までは、着飾るというのは、自分という存在に自信が無い者がする行為だと思っていた。
醜い自分をどうにか美しく見せたいという、哀れな願い……ひ弱な人間が、少しでも強くあろうと鎧を纏い、非力な人間が、少しでも力を手にしようと剣を握るように……弱い命が必死に、高尚な生き物になろうとしているようで醜く思えていたが、
「食べるのがもったいないな……」
この美しい赤い飴玉を目の前にしては、その考えを改めなければならない。
自分に自信が無いから、自分が醜いから綺麗な物を着飾るのではない……美しい物には意味があるのだ。
美しい物には、着飾った者を美しく称え、着飾った者に荘厳な佇まいを与える。
それは、最初の自信が無いから、自分が醜いからという話と同じように思えるかもしれないが、少し違う……『与える物』なのだ。
「……良いのかよ…こんなに良いモノを貰って?」
美しい赤い飴玉を、もっと美しく見ようと太陽にかざしてみると、
「まるで海だ……」
赤い飴玉の中で、海が漂っている。
海の中から太陽を覗くように光がキラメキ、自分の頬に赤いオーロラが照らされて漂う。
あまりにも美しいモノに心奪われて、
「なぁ…これをネックレスにしちゃダメか?」
食べるのを躊躇って、自分の胸元に飾りたくなってしまい、人間に提案してみたのだが、
「……どこ行った?」
すぐ側にいた人間が、いなくなっていた。
人間がどこに行ったのかと辺りを見渡すが、周囲には影一つ無い。
だったらと空を見上げるが、そこに人間の姿は無く、どこに行ったのかと探そうと立ち上がろうとしたが、
『カロン……』
イチゴのような甘い蜜が、口一杯に広がると、
「……俺は?」
崩壊した街の中で、一人立ちすくんでいた。




