異世界のアフレクションネクロマンサー503
「良い世界だ……雲の上の天国よりも、こっちの方が落ち着く……お前も春は好きか?」
春のような陽気な世界。
厳しい冬を越えて、寒さに凍える事も無く、温かな日差しに木々には実が実り、実った木の実を草食動物が食べてふくよかに肥えて、肥えた草食動物を肉食動物が食べて、丸々と健康的に大きくなる。
「春は、肉の旨味が凝縮するんだ。獲物を捕らえて、口にした瞬間からな……肉の濃さと重さが『ズドンッ!!』って来てな……ちなみに次に良いのは秋だ。冬を乗り越える為に、脂肪を蓄えるから甘味が増して……ただ食い過ぎると、気持ち悪くなるから気を付けないといけないんだ……ちなみに人間は見た目だ。赤みが強いのを食いたいなら兵士、脂のバランスが良いのを食いたいなら中肉中背、丸々と太った人間は……まぁ、脂をしこたま食いたい時だな」
自分が覚えている、春の一番良かった時を思い出しながら話すと、人間は笑いながら話を聞いてくれる。
「おいおい、真面目な話だぜ?俺もお前もこれから死ぬけど、欠片になるんじゃなくて、この世界に産まれ直そうぜ。お前も俺もドラゴンに産まれ直して、エルフに泡吹かせてやろう」
死ぬまで戦い合ったからこそ、コイツの事を認める事が出来る。
次に生まれ変わった時は、友人の方が良い……兄弟だと近過ぎるから、友人が良い。
ドラゴンに産まれ直した時の事を想像して、人間にドラゴンの話をする。
色々な事を話すと、人間は楽しそうに話を聞き続けてくれる。
体が欠片になるその時まで、沢山の事を話し続ける。
コイツが、ドラゴンに生まれ変わった時に困らないように、自分が経験した事を教え続けていると、
「なんだよ…握手でもしてぇのか?」
人間が突然、手を握り締めて伸ばして来た。
握手をする行為が、相手に対して友好を伝える方法だというのは理解しているが、
「生まれ変わった時の、楽しみにしておこうぜ」
何か気恥ずかしくて断ると、人間は微笑しながら頷いてから、手のひらを返して広げると、
「それは…飴玉か?」
手のひらに、キラキラと輝く赤い飴玉があった。




