異世界のアフレクションネクロマンサー502
(…………)
重くなった体が気怠い。
壊れかけの体の器など捨てて、命を解放したい。
落ちてる時とは違う思い。
あの時は、人間との勝敗を決する為、勝者になる為に最期の時が迫っても抗ったが、もう雌雄は決している。
(……)
燃やす命も無ければ、燃え上がる理由も無い。
(…)
ただ静かに…意識を薄めて……眠りの中で意識を………うしな…………
(…なん…の…にお…い………)
意識が遠退き、安らかな眠りに沈む中で、匂いが漂う。
心地良い感覚に満たされた体の中で、唯一鼻に漂う、焼け焦げた匂いだけが、深い眠りに誘うのを邪魔してくる。
(ねむら…せて…くれ……)
たった一つ、鼻以外の感覚は、全て眠る態勢になっているというのに、鼻に感じる匂いが意識を繋ぎ止める。
眠ろうとしている体に引っ張られて、深い眠りの底に落ちようとしても、鼻に感じる匂いは、自分の事を掴んで離さない。
立ち上がる気にもなれない程に、体は眠りに誘われているが、不思議な匂いに免じて、渋々と目を開けると、
「なんだ、これは……」
目をつぶっているうちに、焼け焦げた何かが目の前に現れていた。
それが一体何なのか分からず、その訳の分からない物に誘われた事に、面を食らっていると、
「……お前か、呼んだのは?」
焼け焦げた何かに、もたれかかって座っている『人間』がいた。
人間は、ボロボロな鎧に包まれながら息絶えていた……という事は、
「……って事は、俺も死んだって事か」
自分も死んでしまったという事だ。
「……そっちに行っても良いか?」
ドラゴンの問い掛けに、人間が頷く。
「そっか……よっとな!!」
体の中に渦巻く痛みはもう無く、もう苦しむ事は無いのだから、立ち上がってどっかに行っても良いのだが、それでも人間の側に、人間と同じように焼け越えた何かに、もたれかかる。
「これがあの世か……人間の書いた本とは随分と違うじゃないか」
自分の目の前に広がる世界は、雲の上の天国でも無ければ、地獄の底の荒野でも無い、目の前に広がるのは青々と茂った草原に、世界を温かく照らす太陽、それに心地良い風が流れてくる世界。




