黒い海23
黒い海の中で、さらに漆黒の黒さを持つ大きな鯉。
大きな我が身を誇示するかのように優雅にゆったりと、大きな口をパクパクと開いたり閉じたりを繰り返しながら泳ぐ。
姿は鯉と言えど、その鯨のような大きさには圧倒されてしまう。
大きな鯉は、この黒い海を住処にして黒い海を食べる。
先程伝えた通り、この黒い海と化してしまった霊の集合体を成仏させようとした場合、ほつれを見付けてそこからチマチマと成仏させないといけないのだが、大きな鯉の場合は話が違う。
大きな鯉が口をパクパクしているが、これは呼吸をするためでなければただの癖ではない。
大きな鯉は、この強固に繋ぎ合わさっている黒い海の霊の集合体を食べて、その身に黒い海を内包する事が出来る。
大きな鯉は、黒い海を泳ぎながら食べる。
霊能者達が束になって時間を掛けて黒い海を浄化するのに、大きな鯉はその黒い海を綿アメを食べるかのようにパクパクと食べる。
大きな鯉が食べれば食べる程に、そこから悪寒と穢れが消えて黒い海は闇へと戻る。
文献によれば遥か昔、戦国の世、争いが生業として成り立ち、今では薬で治る病気が疫病として蔓延し、食料は気候に影響されて飢餓が発生する時代から大きな鯉は存在していた。
その時の大きな鯉は黒い海を捕食するのではなく、現実の、この世の現世に姿を現し、天国か地獄に行くはずだった魂を貪り食べていたとされ、大きな鯉は屍が多くある所に姿を現すという特徴があった。
しかも文献の詳細によれば、大きな鯉に捕食された姿形を無くした者は幽霊として蘇らされ、姿形を残した者は妖怪として生まれ変わると書かれている。




