異世界のアフレクションネクロマンサー476
オレンジの液体から、溶けた『人間』を感じ取れるように、手を浸しながら空を見上げる。
「どこに行くか……」
エルフ達が創り出した爆弾は、ここ以外にもある。
ここでは自分と『人間』が生まれ、他に点在しているオレンジの液体がある所でも『何か』が生まれている可能性がある。
エルフ達の爆弾を破壊するのが、自分の役目とは言わないが、それでも手にした力を磨く事が出来る。
そうすれば、この胸に宿る悲しみも、少しは紛れるかもしれないし、
「そう…力を磨く為だ……」
逆を言えば、やれる事はこの位しかない。
やろうと思えば、この世界にいる人間の半数位なら殺す事も出来るかもしれない……しかし、それではエルフに負けてしまう。
我々の望みはあくまでも、エルフを倒す事。
出来れば、その望みを果たす者は、我々ドラゴンであって欲しかったが、
「仕方無い……」
たった一人で戦争が出来るというのなら、こんなにも苦労をしていない。
いつの日か来るであろう、エルフとの戦いには数が必要になる。
それが、どのような形になるかは分からないが、
「信じるしかないか……」
力を蔓延してしまった人間達が滅びる事無く、エルフに対抗出来る程に、順当に数を増やす事を。
「それでも良いはずだ」
我々にとっての、神に等しい『あの方』が異世界へと飛び去った時、少し欠片が舞った。
それは、ドラゴンという生物に知性を与え、それと同時に『あの方』が抱えていた悩みも降り注ぐ。
我々ドラゴンを使役し、我々を奴隷にしたエルフ……その復讐を成したいという願い。
『あの方』の苦悩を思えば、人間が、エルフの悪辣な行為を止める事になったとしても、許してくれるだろう。
「…そうだな、あそこに行こう……何かの導きかもしれない」
『人間』が見た、あの遠い島国。
少し遠い旅にはなるが、その少し遠い旅は、自分に成長する時間をくれるかもしれない。
「お前も、それが良いだろ?」
オレンジの液体の中に溶けた『人間』
敵対したとはいえ、憎しみから来たものでは無い。
どちらが宿命を背負うかを、競い合った仲。
戦いが終わり、自分の力になるというのなら同胞も一緒。
オレンジの液体の中に浸している手を、握手をするように指先を曲げると、
『ゴポッ…ゴポゴポッ……』
まるで、自分の問い掛けに応えるように、泡が浮かんで来るのであった。




