異世界のアフレクションネクロマンサー475
「あの人が大切に思っていた物か……」
道標は、あの人が最期に遺した思い出。
あの人が言うには、みんなが迷わないようにし、導くためにあると言っていたが……
「……よっ…と!!」
力が抜けて、眠りに付こうとしていた足を、空に向かって伸ばすと反動をつけ、起き上がり小法師のように、上半身を起き上がらせて、胡坐をかく。
「どうも…こんにちはですかね?わざわざ、そっちの方から来てくれるなんて嬉しいですよ」
道標に挨拶をする。
自分が呼んだのではない、道標の方から来てくれたのだから、きっと何か用があるに違いない。
「いやぁ、ドラゴンの方が一枚も二枚も上手で、対抗する手段も潰されちゃって、時間も無くて……ははっ、もう八方塞がりで……」
物言わぬ道標に、親し気に話し掛けながら、自分の置かれている状況を、乾いた笑いを混ぜながら喋るが、改めて口にすると酷い状況。
「さっきまでは、このままこの世界に溶けて、終わっても良いと思ってたけど……」
道標を真正面から見据えて、
「少しだけで良いんです…力を貸してくれませんか?」
胡坐を掻いていた足を解いて立ち上がり、道標に助けを求めて手を伸ばすと、
「これ…は……」
焦げた道標が途端に透き通り、黒曜石のように美しい光沢に様変わりして、自分の姿が映し出されると、
「…この姿に…なれと……」
道標の中に映し出された姿は……
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「まだ時間が掛かるか……」
オレンジの液体の中に沈めた人間は溶けた。
後は、溶けた液体から人間を抽出すれば、新たな力を手にする事になる。
「新たな力……」
前なら、自分の知らない力を手にする事に喜びを感じたが、その力を遺憾なく発揮するには、自分だけではダメだと思い知らせれてしまっては、喜び難い。
あの『人間』との戦いの後に感じる、薄れた高揚感に疲れを覚えて、噴水の縁に座ると、オレンジの液体に手を浸すが何も感じない。
「まぁ…待つさ……」
そんなには急いでいない…『新たな力』は手にしたい物ではあるが、前ほどの喉から手が出る程の欲求は無い。
少し時間を無駄にするのも、悪くはない。




