異世界のアフレクションネクロマンサー471
(終わりは…あっけないものだ)
獲物を狩り取った時の、気持ちが震えるものが一切無い。
それ所か、鼻先まで追い詰めた、獲物を逃してしまったかのような、沈むような気持ちで胸が張り裂けそうで……
「仕方無い事だが…もう少し、お前とはやり合いたかったよ」
決して肩に担いでいるコイツが弱かったとは言わない。
この世界に生まれたばかりなのに、自分という生命の最高峰に恐れる事無く立ち向かい、全力で立ち向かわせた……足りない事があるとしたら二つ。
一つは時間だ。
もっと長く…一分一秒でも、長く命を掛けた戦いをしたかった。
自分の中の知らぬ部分が熱く燃えて、気持ちが次々と変化し、新たな気持ちが生まれる。
オレンジの液体を手にして、知識を得た時には喜びを感じたが、それだけでは足りなかった。
まるで本だけを渡されて「こういう物があり」「こういう事がある」それを知っただけで……本の中に描かれている蝶を知っただけで実物を知らない。
それが一体どういう生き物で、どう動くのか…そして触れたらどうなるのか……その何とも言えない気持ちを抱えていたのをどうにかしてくれたのがコイツだった。
この与えられた気持ちが、高まる事も無ければ、沈む事も無く。
ただ気持ちという物があるのだと、漠然と理解していたのが、
「……着いたぞ」
オレンジの液体が満たされた噴水の前に辿り着くと、肩に抱き抱えていた人間の亡骸をそっと降ろして、噴水の縁に座らせてあげる。
物言わぬ肉塊…戦いが終わったのだから、さっさと始末しても良いのだが……
「…………」
お別れの言葉選ぶ。
足りない事があるとしたらの二つ目。
一つ目は感情をもっと知りたいという、欲求を満たす事であったが二つ目は……
「…強かったよ……良い時間をくれた、お前には感謝している」」
その言葉を言うのは憚れた……その言葉を言ったら、全力で立ち向かったコイツに対する侮辱なってしまう。
色んな言葉の中から、人間に礼を述べる言葉を選ぶと、人間を抱き上げて、
「その力…貰うぞ」
オレンジの噴水に沈めるのであった。




