異世界のアフレクションネクロマンサー454
それは高温で熱せられ、中から膨張してヒビが入っているのではない。
「何が…生まれる?」
何かが、オレンジの卵の中から生まれようとしている…オレンジの卵の中で鼓動する命を感じる。
「あの男なのか…しかし……」
あの男が覚醒して目を覚ますというのなら、気配で分かる。
人の身でありながら、秘石を体内に蓄積させた肉体…あの独特な感覚を見間違う事は無い。
オレンジの卵の中から感じるのは、あの男の気配では無く、あの男の気配に何か混ざった存在。
その気配を感じた時点で、あの男はオレンジの液体に飲み込まれたのだと気付いた。
「……とにかくだ」
オレンジの卵の中から、あの男が出て来るというのなら歓迎もしたが、あの男を吸収した化け物が生れて来るというのなら話は別。
災厄をもたらす存在を許す訳にはいかない。
『パキパキ…パキパキパキ……』
次第に大きくなっていく亀裂は、生命の誕生の前触れ。
『スゥゥゥゥゥゥ……』
もう一度息を吸い込んで、体内の中の力を高めて、体中に紋章を浮かび上がらせ、
「これは耐えれるか?」
右手に力を溜めると、爪がオレンジ色に輝き始める。
どんなに堅い鎧でも貫き、切り裂いて来た爪…その爪に、腕に力を込めたのだ……耐え切れるものでは無い。
オレンジの卵の強度には驚かされたが、卵は元々、外敵から中身を守る為に強固な物である。
それを考えれば、一度目の攻撃を耐えたのも納得出来るものであり、
「喰らえ!!」
逆を返せば、生まれてもいない今の状態なら、卵の中は柔い。
突き出した右手は、ヒビの隙間を狙う。
この世界に命を解き放つ為に、砕け脆くなった所に、
『バギィィンッ!!!!』
渾身の一撃を打ち込んで、オレンジの卵に風穴を開ける。
この世界に産声を上げる間を与えずに殺す…後もう少しで生まれる命を摘み取る事への罪悪感は無い。
突き刺した手を握り締めて、オレンジの卵から手を引き抜き、
「……お前は、何者だ」
獲物の感触の無かった手を、ヒラヒラと振るいながら、オレンジの卵の向こう側で立っている。
「私…?」
その人物は、同じ姿をしている。
「私は……」
その見た目は、人の細長い手足を持ち、人の小柄な胴回り持った者なのだが……
「あの人から…欠片を貰った……」
鱗に覆われた皮膚、蝙蝠のような羽、トカゲのような尻尾……ドラゴンの精悍な顔付きは、ドラゴンそのものなのだが……
「人間の味方だ」
そこには、ドラゴンの姿をした人間がいる。




