異世界のアフレクションネクロマンサー453
幾つもの命が体となり、幾つものの命から知恵を授かり、新たな姿になったというのに……
「残念だ……」
あの男は、人間という身でありながら、ドラゴンの秘石を蓄積させるという、命懸けの行為をしたというのに……
自分が座っている反対側にあるのは、新たな姿になった男では無く、オレンジの液体に飲み込まれてオレンジの卵になった姿。
これではもう、期待していた事は叶わない。
首を左右に振って、噴水の淵から立ち上がり、ゆっくりとオレンジの卵の方へと近付く。
自分の期待通りにならなかった事への、残念と思う気持ちを振り切り、
「とは言え、これは始末しなければならない」
オレンジの卵を破裂させる準備を始める。
これは、エルフ達が作った爆弾。
多くの命を奪って創り出した、偽りの世界で産まれたクリーチャー……命と呼ぶには、忌避される存在。
例え焼け石に水だとしても、奴等の計画を一つでも潰す。
「スゥゥゥゥゥゥ……」
体内に培った力を解放していくと、足先から背中、指の先から首筋まで、お腹から顔一面と、オレンジの線で描かれた紋章が浮かび上がるが、
「これは…貴様達から奪った力だ……」
体に浮かび上がった紋章、それは決してただのマークでは無い。
これは、エルフ達の詠唱の時の言葉。
胸の中で秘石とマナを反応させるのとは違う、体の中に……体の芯にマナが染みて、
『コォォォ…………』
胸が灼熱と化して燃え上がる。
自分でも分かる…これは今までの炎とは違う……これを何と呼べば良いのか分からないが……それでも、
(消えろ……)
『ゴォォォォォォォォォォォ!!!!!!』
オレンジの卵を消し去るには十分過ぎる力。
吐き出した炎のようなモノは、オレンジの卵に纏わり付いて溶かす…焼くのではなく、溶かす。
燃える等と生易しいモノでは無い、焼けるという工程を無視して溶かす。
肉はもちろん、骨もカスとなって消え去るほどの熱量を、オレンジの卵は浴びて…グジュグジュに…ドロドロに……
『パキ……』
「なんだ?」
『パキ…パキパキ…』
グジュグジュに、ドロドロに溶けて消えていくかと思われた、オレンジの卵は溶けるのではなくヒビが入っていく。




