黒い海18
天国に行くことが出来る穢れが少ない魂は、天国で温かな時の中で魂を清めるだけで済むが、地獄に落ちるような魂は温かな時の中で魂を清めることは出来ない。
地獄に落ちる魂は、その魂自体が穢れているというのもあるが、他の人の恨みだけでなく多くの命の恨みを買っている。
そのため、悪行を積んだ魂を浄化させようとしても、魂にこびり付いた恨みが許さず、怨念となって魂の浄化を行わせない……だから、地獄が必要なのだ
気が遠くなる長い年月、気が狂う苛烈な拷問で怨念を削ぐ。
だが、気が遠くなって気が狂ったからといってそのまま許されることはない。
気が遠くなれば砂をジャリジャリと噛み締めるように一日一日を味合わせ、気が狂えばこれ幸いと苛烈に加えて熾烈な拷問を重ねられる。
そうして魂にこびり付いた怨念の許しを請うことになる……ただ、地獄に落ちた魂が最後まで持つかどうかは別として。
そうすることで天国にしろ地獄にしろ、いつかはこの世に還す事を前提にしている。
しかし、この黒い海は違う。
黒い海は成仏出来ずに、現世に居残ってしまったものが辿り着いてしまう袋小路なのだ。
この袋小路に落ちて黒い海と一体化してしまうと、黒い海の入り口から霊能者が定期的に行う除霊に運良くタイミングが合って成仏されるか、ここの主である大きな鯉に捕食されて幽霊になって霊能者達に浄化されるか、処理させられるか位しか方法が無くなってしまう。
このどちらにも出会う事が無いと、黒い海に永遠のように漂ってしまう。
以前の定期的な黒い海の霊を浄化する作業をした際、最古で戦国時代の霊を見たという報告が上がっている。
霊がそんなに時代を超えていられるのかと驚くかもしれないが、霊というものは電気や火のようなエネルギー、一定の形状を持たない…すなわちそれだけで力を有するといえば良いのだろうか?
霊がエネルギーというのなら、いつかは消えて無くなってしまうものではあるのだが、霊のエネルギー源は思念。
それは痛みや苦しみに屈辱……晴らすことが出来なかった出来事が永遠に自分を苦しめ、その永遠に続く苦痛が魂のエネルギー源になる。
どうしても理解出来ないと言うなら、忘れられない嫌な思い出を思い出して欲しい。




