夢の中1
1996年12月31日大晦日
月の明かりと星が暗い空を彩る季節。
人々は家で年越しそばの準備をしたり、テレビからカウントダウンが始まるのをそわそわと待つ……そんな静かな平和な時間が流れる世界で、
「よーし!!今度は礼人の番だ!!」
「上手くやれよ!!」
人気の無い古びた寺で一人の少年と大人の男達が遊びに興じていた。
「行きます!!」
礼人と呼ばれた少年は、少し呼吸を整えて手の平を軽く開くと、小さなビー玉程の小さな光の玉が現れる。
その小さな光の玉を見た周りの大人達は、
「良いぞ礼人!!」
「そのまま形を整えるんだ!!」
応援半分の、場の盛り上げの半分でヤンヤヤンヤとはやし立てる。
だが、礼人はその周りの声に耳を貸さずに目を閉じてイメージする……自分が一番イメージしやすくて作りやすい物を……
静かな自分だけの世界でイメージを浮かべる。
ビー玉のように小さな光の玉を思い浮かべ、光の玉を薄く広げていくと、光るビー玉はその形を小さな小さな正方形の折り紙に変える。
そこからは小さな折り紙を折りたたみ折りたたみ、数回折りたたんだイメージが出来た所で目を開けると、
「出来た……」
礼人の手の中には小さなビー玉が姿形を変えた、小さな紙飛行機があった。
「良くやった礼人!!」
「良い出来だ!!」
紙飛行機に良い出来も悪い出来も無いような気もするが、礼人の紙飛行機はしっかりと紙飛行機の形をしている。
手の中にある小さな紙飛行機、それを指に挟んで神棚の下の方に向けると、
「しっかり狙うんだぞ!!」
そこには桐箱に立てられたイチョウの葉を模した的があった。
それは俗にいう投扇興という遊び。
桐箱の台に立てられた的は蝶と呼ばれ、本来なら扇を的に向かって投げ、崩れた扇、蝶によって作られた形を点式にそって採点し、その得点を競い遊ぶ。
その投扇興というお座敷を模して彼らは遊んでいる。
礼人は桐箱の上に立つ的に向かって、光る紙飛行機を飛ばすと一直線に飛んでいくが、
「あっ…」
光る紙飛行機は放たれた瞬間から、その身を砂のようにサラサラと溶かして光の粉を溢してしまう。
キラキラと白い光を溢しながらも的に向かって飛ぶ紙飛行機ではあったが、飛べば飛ぶほどに小さい紙飛行機はより小さくなってしまい、最後には一枚の紙の破片となって的に触れることなく消えてしまった。